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遺産相続学は、数ある学問の中でもその重要性と地位が最も高く、かつその学習によって偉大な報奨を約束されている学問の1つです。また財産とその分配は人の欲が絡む分野であり、かつ遺産相続人は大概男女、年長者と年少者、弱者と強者などから混成されていることから、そこにおいて勝手な個人的意見や欲望が幅を利かせないためにも、偉大かつ荘厳なるアッラーが直々にその分割を請け負われたのです。

    遺産相続

    ] 日本語 [

    كتاب الفرائض

    [اللغة اليابانية ]

    ムハンマド・ブン・イブラーヒーム・アッ=トゥワイジリー

    محمد بن إبراهيم التويجري

    翻訳者: サイード佐藤

    ترجمة: سعيد ساتو

    校閲者: ファーティマ佐藤

    مراجعة: فاطمة ساتو

    海外ダアワ啓発援助オフィス組織(リヤド市ラブワ地区)

    المكتب التعاوني للدعوة وتوعية الجاليات بالربوة بمدينة الرياض

    1429 – 2008

    遺産相続

    ● 遺産相続学の重要性:

    遺産相続学は、数ある学問の中でもその重要性と地位が最も高く、かつその学習によって偉大な報奨を約束されている学問の1つです。至高のアッラーが自ら遺産相続の配分率の設定に携われ、また各相続人の相続分を明白にされたのも、ひとえにその重要性ゆえなのです。そして多くの場合、その詳細はクルアーンの章句の中に見出すことが出来ます。

    また財産とその分配は人の欲が絡む分野であり、かつ遺産相続人は大概男女、年長者と年少者、弱者と強者などから混成されていることから、そこにおいて勝手な個人的意見や欲望が幅を利かせないためにも、偉大かつ荘厳なるアッラーが直々にその分割を請け負われたのです。また崇高なるアッラーはクルアーンにおいてその詳細をつまびらかにされ、かれが最もよくご存知であるところの公正と福利に沿った形で、各相続人に適切な分配を定められたのです。

    ● 人の状態:

     人には大きく分けて、2つの状態があります:つまり①生存状態、と②死亡状態、の2つです。

     そして遺産相続の大方の規定は人間の死に関わっているものですから、人間が必要としている知識の半分の位置を占めていると言うことが出来ます。

    ● ジャーヒリーヤ(イスラーム以前の無明時代)においては、相続権を有するのは年長者や男性だけで、子供や女性にその権利は認められていませんでした。しかし現代におけるジャーヒリーヤの国々では、各相続人に不適切な額の相続分を認めることで様々な悪や不正を及ぼしています。このような中イスラームは、各相続人に最適な額を公正な形で分割することを定めたのです。

    ● 遺産相続学とは:相続人とそうでない者、また各相続人の相続分を知るための学問です。

    ● そのトピックは:財産か物品かを問わず、故人が残した遺産です。

    ● その益は:相続人の内のそれに値する者に、その権利を与えることです。

    ● 遺産相続とは:3分の1、4分の1などといったように、イスラーム法が各相続人に定めている法定相続分のことです。

    ● 遺産に関連する義務:

     遺産に関連する義務は5つあります:そしてそれらは以下に示す順番に沿って、遂行していかなければなりません。

    1-死に装束など、故人の遺体に関する準備のための必要な額を遺産から差し引くこと。

    2-抵当による債務など、遺産そのものに関わる義務を清算すること。

    3-一般的債務の清算:故人の、ザカー(義務的喜捨)や財産に関連する贖罪義務のような至高のアッラーに対する財的義務の不履行や、あるいは単なる借金や家賃滞納のように人に対する財的義務の不履行である場合があります。

    4-遺言の遂行。

    5-法定相続人への分割:これがここで取り上げる主題です。

    ● 相続の基幹:

     1-被相続人:故人のことです。

     2-相続人:被相続人の死後に残された者です。

     3-相続物:遺産のことです。

    ● 相続の原因をもたらすもの:

     1-正しい契約によって結ばれた婚姻:単なる婚姻契約のみで、夫婦は相互に相続し合う関係になります。

     2-親族:両親などの尊属や子供などの卑属、また兄弟や伯父、そしてその子供などの傍系からなる親族のことです。

     3-忠儀関係:元奴隷と、彼を解放したという恩義を有する主人との間に成立する特別な関係のことです。元奴隷に固定相続あるいは変動相続によって相続する者がない限りにおいて、彼の解放者は彼から相続します(その逆はありません)。

    ● 相続の条件:

     相続には、被相続人の観点から見た3つの条件があります:

    1-被相続人の死。

    2-被相続人の死の折に、相続人が存命中である(またはあった)こと。

    3-婚姻や親族関係や忠義関係など、相続を義務付ける要因に関する知識。

    ● 相続を阻む要素:

     相続を阻む要素には3つあります:

    1-隷属状態[1]:奴隷はその主人の所有物ゆえ、相続もしなければ相続させもしません。

    2-不当な殺人:故意であれ過ちであれ、殺人を犯した者は殺した被相続人から相続しません。

    3-宗教の相違:ムスリムは非ムスリムから相続しませんし、その逆もまた同様です。

    ウサーマ・ブン・ザイド(彼らにアッラーのご満悦あれ)によれば、預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「ムスリムが非ムスリムから相続することもなければ、非ムスリムがムスリムから相続することもない。」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[2]

    ● 離婚された女性の相続:

    1-暫定離婚[3]中の女性はイッダ(待婚期間)にある限り、その夫と互いに対する相続権を有します。

    2-完全離婚された女性は、もし夫が彼女にそれを通告したのが彼の健全な状態の時であれば、互いに相続し合いません。

    但し夫がそれを通告した時に彼が死の恐れのある病にあった場合、2つのケースが考えられます。1つは夫がその完全離婚でもって、彼女を自分の遺産相続から排除しようとしていたとの訴えがなかった場合で、この場合彼女に相続権はありません。しかしもしそのような訴えがあったら、彼女は相続権を有します。

    ● 相続の種類:

     相続には2種類あります:

     1-固定相続:2分の1、4分の1、といったように、相続人にあらかじめ相続分が定められているものです。

     2-変動相続:相続人にあらかじめ相続分が指定されていない類のものです。

    ● クルアーンで言及されている固定相続の割合:

     クルアーンで言及されている固定相続の割合には、6種類あります:

    ① 2分の1

    ② 4分の1

    ③ 8分の1

    ④ 3分の2

    ⑤ 3分の1

    ⑥ 6分の1

     尚残余分の3分の1[4]は、法的理解における努力によって確定しました。

    ● 男性の相続人:

     男性の相続人は、詳細には15種類あります:

    ① 息子

    ② 孫息子とその男性卑属。男系で直結している者のみ[5]

    ③ 父親

    ④ 祖父とその男性尊属。男系で直結している者のみ

    ⑤ 同父母の兄弟

    ⑥ 異母兄弟

    ⑦ 異父兄弟

    ⑧ 同父母の兄弟の息子及びその男性卑属。男系で直結している者のみ

    ⑨ 異母兄弟の息子及びその男性卑属。男系で直結している者のみ

    ⑩ 夫

    ⑪ 父親の同父母の兄弟(つまり伯叔父)及びその男性尊属

    ⑫ 父親の異母兄弟(つまり伯叔父)とその男性尊属

    ⑬ 父親の同父母の兄弟(つまり伯叔父)の息子及びその男性卑属。男系で直結している者のみ

    ⑭ 父親の異母兄弟(つまり伯叔父)の息子とその男性卑属。男系で直結している者のみ

    ⑮ 奴隷の解放主とその相続人

     尚母方の伯叔父や異父兄弟の息子、父親の異父兄弟やその息子など、固定相続でも変動相続でも相続しないような間柄にある親類男性はまとめてズー・アル=アルハームと呼称します。

    ● 女性の相続人:

     女性の相続人は、詳細には11種類あります:

    ① 娘

    ② 孫娘とその女性卑属。その父親が男系で直結している者のみ

    ③ 母親。

    ④ 母方の祖母とその女性尊属。女性で直結している者のみ

    ⑤ 父方の祖母とその女性尊属。女性で直結している者のみ

    ⑥ 父方の曾祖母。

    ⑦ 父母を共にする姉妹

    ⑧ 異母姉妹。

    ⑨ 異父姉妹。

    ⑩ 妻。

    ⑪ 解放した元奴隷女性

     父方の伯叔母や母方の伯叔母など、上記以外の親類女性もまたズー・アル=アルハームと呼称します。

     至高のアッラーは仰られました:-多かれ少なかれ、男性は両親と近親が残したもの(遺産)からの取り分があり、女性にもまた両親と近親が残したもの(遺産)からの取り分がある。(アッラーは)義務の配当(を義務付けられたの)である。,(クルアーン4:7)

    [1] 訳者注:イスラームは奴隷の存在に対して積極的なわけではなく、むしろ奴隷になった者たちの解放を折に触れて奨励しています。詳しくは「4-ムアーマラート」の章の26「奴隷の解放」の項を参照のこと。

    [2] サヒーフ・アル=ブハーリー(6764)、サヒーフ・ムスリム(1614)。文章はアル=ブハーリーのもの。

    [3] 訳者注:詳しくは「6婚姻」の章の「2-暫定離婚と完全離婚」の項を参照のこと。

    [4] 訳者注:詳しくは「①固定相続」の章の「③母親の相続分」内の「ウマルの事例」を参照のこと。

    [5] 訳者注:つまり故人とその者との間に女性がいないような男性のことです。例えば孫娘の息子などは男性尊属ではあっても、相続権は有しません。