贈与とサダカ(施し)
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贈与とサダカ(施し)
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الهبة والصدقة
[اللغة اليابانية ]
ムハンマド・ブン・イブラーヒーム・アッ=トゥワイジリー
محمد بن إبراهيم التويجري
翻訳者: サイード佐藤
ترجمة: سعيد ساتو
校閲者: ファーティマ佐藤
مراجعة: فاطمة ساتو
海外ダアワ啓発援助オフィス組織(リヤド市ラブワ地区)
المكتب التعاوني للدعوة وتوعية الجاليات بالربوة بمدينة الرياض
1429 – 2008
24-贈与とサダカ(施し)
● 財産による他人の慰安には3つの段階があります:
1-第1段階:優れない境遇の者を自分以下のレベルとし、乞われる前に与えます。これは最も低い段階です。
2-第2段階:その者を自分と同じレベルとし、自分の財産を共有させることに満足感を覚えます。
3-第3段階:その者を自らより優先することで、これが最も高い段階‐スィッディーク(よくサダカする者)の位階‐です。
● 贈与とは:見返りを求めることなく、自らの存命中に他人に財産を譲渡することです。
● サダカとは:至高のアッラーからの報奨を望みつつ、貧者や恵まれない者に財産を施すことです。
● 贈与とサダカの法的位置づけ:
贈与もサダカもイスラームが奨励し、推奨しているところのものです。
そこには人々の心の結合や愛情の育成と共に、吝嗇さや貪欲さなどの卑しい性質から自らの心を清めてくれる効果があります。そしてそれをもって至高のアッラーの御顔を望む者に対して、かれは偉大な報奨をご用意されるのです。
● 施しにおける預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)の手法:
アッラーはご自身が最も寛大かつ気前のよいお方であるゆえ、寛大さや気前のよさを愛でられます。そしてアッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)こそは人類の内で、最も気前のよい人物でした。
彼はとりわけラマダーン月[1]に気前がよくなったと言われています。
彼は贈り物を受け取ればそのお返しをし、人からの贈り物を受け入れることを勧め、また贈り物をすることを人々に促しました。
また彼は自分の所有物を誰よりもよくサダカし、多かれ少なかれ人から何かをせがまれればそれを断ることがありませんでした。そして贈り物とサダカを何よりも愛し、特に貧困に喘いでいるわけではない者に対してもプレゼントをしたものでした。
彼は贈り物をすることで、それを受取る者よりも遥かに強い喜びや歓喜の念を抱きました。そして貧しい者がやってくれば、その者を自分のことよりも優先しました。
また彼は時には寄贈、時にはサダカ、また時にはプレゼントといった風に、贈り物やサダカの種類に色々と変化をつけました。また時には買い物の際にその値段以上の額を払い、またある時には借りていた物を返却する際にそれよりよい物を返しました。そしてまた時には、物売りに値段と商品そのものを与えたりもしました。
このように預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は最も心が広く、気持がよく、敏感で優美な心を備えた方だったのです。
● 寛大さと善行の徳:
1-至高のアッラーはこう仰られました:-あなた方が施す物は、あなた方自身を(その報奨でもって)益する。そしてあなた方(信仰者)は、アッラーの御顔を望むことなく施しはしない。よき物を施せば、われら(アッラーのこと)があなたに報いるのだ。あなた方が不正を受けることはない。,(クルアーン2:272)
2-アブー・フライラ(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「アッラーの使徒(彼にアッラーからの平安と祝福あれ)は言いました:“合法的なよい手段をもって稼いだ糧から施せば、それがナツメヤシの実1粒ほどのものであっても、アッラーは‐かれはよき物であれば受け入れられるお方ゆえ‐それをその右手でもって受け入れられるであろう。そしてまるであなた方が子馬を山のよう(な大きさ)になるまで育てるように、かれはその施し(の報奨)を大きくされるであろう。”」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[2])
● 贈り物を受け取ることに関して:
自ら頼んだり、所望したりすることなく他人から財産や物を贈与された場合、それを受領するべきです。それはアッラーが与えて下さった糧なのであり、それを受領した者は望むならそれを投資などに用いることも出来ますし、また更に他の者にサダカとして施すことも出来ます。
イブン・ウマル(彼らにアッラーのご満悦あれ)によれば、アッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)はウマル・ブン・アル=ハッターブに贈り物をしましたが、その際ウマルは彼にこう言いました:「“アッラーの使徒よ、それを私よりも貧しい者にお与え下さい。”するとアッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は、こう言いました:“それを受け取るのだ。そしてそれを何かに運用するなり、サダカするなりせよ。あなたがせがんだわけでもなく、所望したわけでもないのであるから、受け取るのだ。そのような状況でない限り、(贈り物を受け取ることに)気兼ねするのではない。”」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[3])
● サダカはムスリム、非ムスリムを問わず施すことが出来ます。
● 贈与の成立:
贈与は「これをあなたにあげます」とか「これはあなたへの贈り物です」とかいった、見返りなしに財産を譲渡することを示すいかなる言葉、あるいはそれを示すいかなる行いによっても成立します。
尚贈与は、売買が有効であるような全ての物を対象とすることが可能です。
そして例えごく些細なものであっても、贈り物を拒むことは忌避されます。
● 自分の子供への贈与:
1-人は存命中に自分の子供に贈与することが出来ますが、その際は相続法上の見地から子供全員を平等に扱わなければなりません。もし相続法上同配分の物を相続する権利を有する子供同士に不平等な贈与を行ってしまった場合、多く与えた方から減らしたり、あるいは少なかった方にもっと与えたりして平等な配分になるよう調整します。
2-以下のような場合は、自分の子供の内の特定の者だけに限って贈与することが許されます:
① その者が困窮状態にある場合。
② 治る見込みのない病に冒されているような場合。
③ 子沢山である場合。
④ 沢山の病を抱えているような場合。
⑤ 学問に従事していたりする場合。
但し上記のような正当な理由もなく、単なる偏愛ゆえにそうすることは禁じられています。
アン=ヌゥマーン・ブン・バシール(彼らにアッラーのご満悦あれ)は、彼の父が彼を連れてアッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)のもとに赴き、こう言ったと伝えています:「“私はこの息子に、私の奴隷を与えました。”するとアッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:“あなたの子供全員にそれと同様の物を与えたのか?”バシール(伝承者の父)は言いました:“いいえ。”するとアッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:“それでは、それを取り返すのだ。”」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[4])
● 贈り物を取り返すこと:
既に手渡された贈与品を取り返すことは禁じられていますが、父親の子供に対するそれはその限りではありません。父親は子供に対する贈り物に関し、それがその子供にとって必須の物であったり、あるいはそうすることで彼が何らかの害悪を被ったりしない限り、取り戻すことが出来ます。
また子供は親に対し扶養義務の権利を有しますが、自らの債務に関してまではそれを親に要求する権利がありません。
イブン・アッバース(彼らにアッラーのご満悦あれ)は言いました:「預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:“贈り物を取り戻そうとする者は、自らの吐瀉物を再び口にしようとする犬のようなものである。”」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[5])
● 贈り物をする側とされる側にとってのスンナ[6]:
贈り物はその対象という観点から見ると、全ての者に対して等しくスンナですが、特に近親や友人、高貴な人々や地位の高い人たちへのそれが推奨されています。
また以下のことも推奨されています:
① 贈り物を受け取ること。
② 贈り物を受け取ったら、同様の物かそれよりよい物でもってお返しすること。
③ もし何もお返しする物がなければ、ドゥアー(祈願)してやること。
また友好やイスラームに対する親近感を育むという意味でも、非ムスリムとの間で贈り物のやり取りをすることも許されます。
ウサーマ・ブン・ザイド(彼らにアッラーのご満悦あれ)によれば、アッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「何かしらの善行を受けた者に対して “ジャザーカッラーフ・ハイラー(アッラーがあなたに最善の報奨をお与え下さいますよう)”と言う者は、実に賛美の限りを尽くしたのだ。」(アッ=ティルミズィーの伝承[7])
● 最良のサダカ:
アブー・フライラ(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「ある男が預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)のもとにやって来て、言いました:“アッラーの使徒よ、最も報奨の大きいサダカはどのようなものでしょうか?”(預言者は)言いました:“あなたが健康で物惜しみし、貧困を恐れ、かつ豊かさを望んでいる時に施すものだ。それをあなたの魂が咽喉にまで到達するその時まで、遅らせるのではない。(その時になってあなたは)「何某にこれを、何某にこれを。そして何某にはこれをやることになっていたのだ」などと言うことになる(のだが、その時はもはや手遅れなのだ)。”」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[8])
● 瀕死の者の贈与:
疫病や胸膜炎など死の恐れのある病に罹っている者が遺産相続人の内の誰かに対してする贈与は、その死後に他の遺産相続人たちがそれを許可しない限りは、実行されもしなければ有効でもありません。
また同様にそのような状態にある者は、その死後に他の遺産相続人たちがそれを許可しない限りは、遺産相続人以外の者に彼の財産の3分の1以上の物を贈与することが出来ません。そのような贈与は実行されもしなければ、有効でもありません。
● 誰かの助けで第3者に執り成しをしてもらったり、都合をつけてもらったりした関係でその者に何か贈り物をし、そしてその者がそれを受領した場合、それはリバー[9]の域へとつながる大きな扉を開けてしまったことになります。
● 贈り物を拒むことに関して:
もし贈り主があなたへの贈与によって恩を着せたり、またはそれによって見下したり、あるいはそれを人に吹聴して回ったりすることが分かっているなどの理由がある場合、その贈り物を拒否することが出来ます。
また贈り物が盗難品や横領品であることが判明したら、それを受領することは禁じられます。
● 何らかの福利を意図した贈り物:
何か非合法なことに協力してもらうために権力者に贈り物をするなどといった場合、その贈与は贈り主にとっても受け取る側にとっても非合法となります。これこそは贈り主も受け取る側も呪われるべきいわゆる賄賂に他なりません。
一方権力者からの抑圧を阻んだり、あるいは奪われている本来の権利を認めさせたりするために用いる贈与は受け取る側にとっては非合法ですが、贈る側にとっては害悪の防止や権利の保護といった観点から合法となります。
● サダカを受け取る者の優先性:
最善のサダカは富の余剰から施すもの、また自分が扶養する者に対するものです。アッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)はこう言いました:
「(施しはまず)自分から始めよ。そして妻に施し、そしてもしそれが余ったら自分の家族に施すのだ。そして家族の分を差し引いても余ったら、その時は近親の者に施すのだ。そしてその近親の者の分を差し引いても余ったら、また同様に(より近い者から遠い者へと)施していくのだ。」(ムスリムの伝承[10])
● よいことに財を費やすことの徳:
善行はその10倍から700倍、そしてそれ以上に倍増された形で報われますが、アッラーの道における施しは通常の700倍の善行と見なされます。アッラーこそはお望みの者に、お望みの分だけ倍増させられるお方です。
また施しによる報奨の程度は、それを行う者自身の状態‐その意図、信仰心、真摯さ、善行、寛大さ、その行いによる喜びなど‐や、それを施す量や場所、また施す物自体の質の高さや清らかさや欠陥のなさ、果てはその施し方などによって大きく変わってきます。
1-至高のアッラーはこう仰られました:-アッラーの道において財を施す者たちは、7本の穂を芽吹かせる1粒の種粒のようである。(その7本の穂は)各々100粒もの種を実らせるのだ。アッラーはお望みになる者に(その報奨を)倍増なされる。アッラーはこの上なく豊かで、全てをご存知のお方である。,(クルアーン2:261)
2-至高のアッラーはこう仰られました:-昼に夜に、密かに露わに財を施す者たちには、その主の御許に報奨があるのである。彼らは恐れることもなければ、悲しむこともないのだ。,(クルアーン2:274)
3-アブー・フライラ(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「アッラーの使徒(彼にアッラーからの平安と祝福あれ)は言いました:“あなた方がイスラームの教えをよく身に着けて実践すれば、その行う善行は10倍から700倍の形で記録されるであろう。”」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[11])
[1] 訳者注:ヒジュラ暦9月のいわゆる断食月のこと。
[2] サヒーフ・アル=ブハーリー(1410)、サヒーフ・ムスリム(1014)。文章はアル=ブハーリーのもの。
[3] サヒーフ・アル=ブハーリー(7164)、サヒーフ・ムスリム(1045)。文章はムスリムのもの。
[4] サヒーフ・アル=ブハーリー(2586)、サヒーフ・ムスリム(1623)。文章はムスリムのもの。
[5] サヒーフ・アル=ブハーリー(2589)、サヒーフ・ムスリム(1622)。
[6] 訳者注:預言者ムハンマド(彼にアッラーの祝福と平安あれ)の言動や、彼の認証したこと、及び彼の性質的・形質的諸特徴のこと。ムスリムは可能な限り、彼のスンナを踏襲するべきであるとされています。
[7] 真正な伝承。スナン・アッ=ティルミズィー(2035)。
[8] サヒーフ・アル=ブハーリー(4497)、サヒーフ・ムスリム(92)。文章はアル=ブハーリーのもの。
[9] 訳者注:詳しくは「④リバー」の項を参照のこと。
[10] サヒーフ・ムスリム(997)。
[11] サヒーフ・アル=ブハーリー(42)、サヒーフ・ムスリム(129)。文章はムスリムのもの。