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定められている義務を拒絶したり、またムスリムの統治者から離反したり、あるいは彼に対する服従を拒んだりするような者は、皆罪深い謀叛者と見なされます。尚ムスリムの謀叛者が不信仰者であるというわけではありません。

    固定刑

    7謀叛罪に対する固定刑

    ] 日本語 [

    حد أهل البغي

    [اللغة اليابانية ]

    ムハンマド・ブン・イブラーヒーム・アッ=トゥワイジリー

    محمد بن إبراهيم التويجري

    翻訳者: サイード佐藤

    ترجمة: سعيد ساتو

    校閲者: ファーティマ佐藤

    مراجعة: فاطمة ساتو

    海外ダアワ啓発援助オフィス組織(リヤド市ラブワ地区)

    المكتب التعاوني للدعوة وتوعية الجاليات بالربوة بمدينة الرياض

    1429 – 2008

    6-謀叛罪に対する固定刑

    ● 謀叛者とは:統治者の退位を狙ったり、または彼に対して反旗を翻したり、あるいは人々の彼に対する不服従と分裂を望んだりしつつ、もっともらしい見解を標榜して彼に反抗する、大胆さと力を備えた民のことです。

    ● 謀叛の形:

     定められている義務を拒絶したり、またムスリムの統治者から離反したり、あるいは彼に対する服従を拒んだりするような者は、皆罪深い謀叛者と見なされます。尚ムスリムの謀叛者が不信仰者であるというわけではありません。

    ● 謀叛者たちに対する処置:

     1-謀叛者が統治者から離反したら、統治者はまず彼らに使いを送り、彼らの不満を聴きます。それでもし実際に彼らに対する不正が存在することが分かったら、それを除去するようにします。また彼らが統治者に対して事実無根の何らかの悪い疑念を抱いていたのなら、それを明らかにします。

     それで彼らが統治者の支配下に戻るのであれば何事もありませんが、もしそうでなければ彼らに対して十分な訓戒と討伐の予告を行います。それでも謀叛を止めない場合には彼らを討伐しますが、その際に統治者の臣民は謀叛者の悪と問題を解消すべく、統治者に協力します。

     2-統治者は謀叛者を征伐する折には、大量破壊兵器のように全滅させてしまうような手段を用いることのないようにします。また謀叛者の子供や敗走者、負傷者や戦闘を放棄した者などを殺害することは許されません。

     また彼らの内で捕虜となった者に関しては、騒動が沈静するまで拘束します。そして彼らの財産を戦利品としたり、彼らの婦女子や子供を奴隷としたりすることは許されていません。

     3-謀叛者の討伐における、謀叛者側の財産あるいは生命などに関する損失には何の賠償義務もありません。

    ● 戦闘中の集団同士に対しての義務:

     党派間の闘争や指導的立場を巡っての戦闘に関しては、いずれの者も不正者と見なされます。そしてその間に損害を与えた財産や生命に関しては、互いに賠償責任を負います。このような戦いは、調停される必要があります。

     1-至高のアッラーは仰られました:-信仰者からなる2集団が戦闘していたら、彼らの間に調停に入るのだ。そしてもし一方が他方に対して違反行為を行っているのなら、その者たちがアッラーのご命令に立ち返るまで、その違反者たちと戦え。そしてもし立ち返るのなら、その時は両者の間を公正でもって調停するのだ。公平であれ。実にアッラーは公平な者たちを愛でられるのだから。,(クルアーン49:9)

     2-アルファジャ(彼にアッラーのご満悦あれ)によれば、アッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「あなた方の諸事が全て1人の者に任されているというのに、あなた方を分裂させるか、あるいはあなた方の集団を分散させようとする者が現れたら、その者を殺すのだ。」(ムスリムの伝承[1]

    ● ムスリムの統治者から離反することの法的位置づけ:

     1-イスラーム法で治める統治者をおくことは、宗教における最も偉大な義務の1つです。そして統治者に対する反逆や離反は、彼が目にも明らかな不信仰の中にあるというアッラーからの明証がない限り、例え彼が不正や抑圧を働いていたとしても禁じられます。またこのことは、統治者がムスリム間の合意や、前任者による指名、その筋の権威の努力による選任によって認定された場合は無論のこと、力によって人々を屈服させることによって自らを統治者とさせた場合であっても同様です。

     また統治者は目にも明らかな不信仰の中にあるというアッラーからの明証がない限り、その放埓さなどゆえに退位させられることはありません。

     2-統治者への服従を拒否する者というのは、強盗か、謀叛者か、あるいはハワーリジュであるかのいずれかです。ハワーリジュとは大罪[2]を犯したムスリムを不信仰者と見なし、そのような者たちの生命と財産は保障されないという独特の誤った見解を掲げています。彼らは宗教的放埓者であり、統治者の命令と指導のもと討伐することが合法化されています。

     これら3種の者は統治者に対する服従を拒む者であり、この状態で死んだ者はアッラーの命に従わなかった反抗的なムスリムという位置づけをされます。

    ● ムスリムの統治者の義務:

     1-ムスリムの統治者は女性ではなく、男性でなければなりません。

     またムスリムの統治者はイスラーム国家とその宗教を守り、アッラーの法規定と固定刑を施行し、国家の防衛を図り、ザカー(喜捨)を徴収し、公正さでもって裁き、その敵との戦いに奮闘すると共に人々をアッラーへといざない、イスラームの普及に努めなければなりません。

     2-ムスリムの統治者は臣民に助言をし、無理な要求をせず、いかなる状況においても彼らをいたわらなければなりません。

     預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「アッラーが人々の後見を命じられたにも関わらず、その者たちを欺いたまま他界したしもべは、アッラーによって天国を禁じられよう。」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[3]

    ● ウンマ(イスラーム共同体)はアッラーの命に反しない範囲において、統治者に従わなければなりません:

     1-至高のアッラーは仰られました:-信仰する者たちよ、アッラーとその使徒と、あなた方の内の諸事を任された権威に従うのだ。そしてもしあなた方が何かで争ったときには、(その判決を)アッラーと使徒に委ねよ。もしあなた方がアッラーと最後の日を信仰しているのなら。,(クルアーン4:59)

     2-イブン・ウマル(彼らにアッラーのご満悦あれ)によれば、預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「ムスリムは好むことであろうと厭うことであろうと、(統治者の言うことを)よく聞き入れ、服従しなければならない。但し彼からアッラーの命に背くことを命じられた場合は、その限りではない。ゆえにアッラーの命に背くことを命じられたら、それを聞き入れ、服従することはない。」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[4]

    ● 固定刑が科される類の犯罪を犯した者の悔悟:

     もしその悔悟が逮捕された後のものである場合、固定刑の執行が免除されることはありません。

     しかしその悔悟が逮捕以前であった場合、その悔悟は受け入れられ、固定刑の執行も赦免されます。これは悔悟した犯罪者から刑罰をお免じになる、万有の主からのご慈悲なのです。

     1-至高のアッラーは仰られました:-(不信仰から)アッラーとその使徒(の仲間)に争いをしかけ地上に腐敗をもたらす輩は、死刑、あるいは磔の刑、あるいは手足の交互切断刑、あるいは追放刑に処される。これらは現世における彼らへの懲罰であるが、来世においてはこの上ない懲罰が彼らを待ち受けているのだ。但しあなた方が召し捕る前に悔悟した者たちは別である。アッラーがお赦し深く慈悲深いお方であることを知るのだ。,(クルアーン5:33-34)

     2-至高のアッラーは仰られました:-そして罪を犯しても、その後に悔悟して信仰する者には、実にその主はその後お赦し深く慈悲深いお方であられる。,(クルアーン7:153)

    [1] サヒーフ・ムスリム(1852)。

    [2] 訳者注:「大罪(カビーラ)」とは、それに対し現世において刑罰が適用されたり、あるいはそれを犯すことで来世において地獄を警告されていたり、またアッラーのご慈悲からの放逐やかれのお怒りを招くこととされているものです。例としては殺人やズィナー(姦淫)、魔法やリバー(不法商取引)、親不孝や嘘の誓いなどがあります。シルクも大罪の範疇に入りますが、それが他の大罪と異なる点は、それを犯すことで不信仰に陥るということです。

    [3] サヒーフ・アル=ブハーリー(7151)、サヒーフ・ムスリム(142)。文章はムスリムのもの。

    [4] サヒーフ・アル=ブハーリー(2955)、サヒーフ・ムスリム(1839)。文章はムスリムのもの。