×
現世は来世での収穫に結びつく耕作の場ですが、ムスリムはそこを去る前に、遺言をもってその財産の一部を貧者や困窮者を益し、かつ死後に至っても自分に報奨をもたらすような慈善行為に充てることを命じることが出来ます。

    遺言

    ] 日本語 [

    الوصية

    [اللغة اليابانية ]

    ムハンマド・ブン・イブラーヒーム・アッ=トゥワイジリー

    محمد بن إبراهيم التويجري

    翻訳者: サイード佐藤

    ترجمة: سعيد ساتو

    校閲者: ファーティマ佐藤

    مراجعة: فاطمة ساتو

    海外ダアワ啓発援助オフィス組織(リヤド市ラブワ地区)

    المكتب التعاوني للدعوة وتوعية الجاليات بالربوة بمدينة الرياض

    1429 – 2008

    25-遺言

    ● 遺言とは:死後の物事の運営や遂行、あるいは任意の施しに関する言い残しのことです。

    ● 遺言が定められたことに潜む英知:

    偉大かつ荘厳なるアッラーはそのしもべに対する優しさと慈しみの深さゆえに、その使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)を介して遺言を定められました。

    ムスリムはこの世を去る前に、遺言をもってその財産の一部を貧者や困窮者を益し、かつ死後に至っても自分に報奨をもたらすような慈善行為に充てることを命じることが出来ます。

     至高のアッラーはこう仰られました:-あなた方が財産を残しつつ死に臨む際に、両親へと近親に対する公正な遺言が定められた。(それは実に)タクワー[1]の徒にとっての義務である。,(クルアーン2:180)

    ● 遺言の法的位置づけ:

    1-遺言は多くの財産を所有し、かつその相続人が困窮した状態にはないような場合に推奨されます。このような時遺言人は自らの全財産の3分の1を超えない範囲で、自分の死後に財産の一部を慈善や善行などの方面に用いるよう遺言します。

    2-アッラーやそのしもべたちに対して果たしていない何らかの財的義務‐ザカー(喜捨)や債務など‐を抱えていたり、あるいは他人の預託物を預かっていたりした場合、それらの権利を反故にしてしまわないように遺言の中で明確にしておく義務があります。

    また多くの財産を残す場合、遺産相続人ではない近親に対しても、自らの全財産の3分の1を超えない範囲で財産の一部の譲渡を遺言しておくべきです。

    3-子供や妻などの遺産相続人に財産譲渡の遺言をすることは禁じられています。

    ● 遺言する財産の目安:

    遺言人に比較的沢山の財産があり、かつ遺産相続人が存在しているような場合、全財産の5分の1、または4分の1を遺言に用いるのがスンナ[2]です。そして5分の1がよりよいでしょう。

    遺産相続人以外の者に対して、全財産の3分の1にあたる額の財産を遺言で施すことは合法です。

    また遺産相続人が貧しいのにも関わらず、遺言で彼ら以外の貧者に施すことは忌避されるべき行いです。

    尚遺産相続人が1人もいないような場合、全財産を遺言によって施すことが出来ます。

    遺産相続人がありながら、遺言で自らの全財産の3分の1を超える額をそれ以外の者に施すことは許されません。また遺産相続人に対しての遺言は非合法です。

    尚まだ存命中に、自分の父や兄などにハッジ(大巡礼)や犠牲を屠ることの代行を遺言することは可能です。というのもこれは財産の譲渡を意図した遺言ではなく、善行や報奨を意図したものであるからです。

    ● 遺言する対象に求められる条件:

    遺言の対象は男女を問わず、以下のことが条件付けられます:

    ① ムスリムであること

    ② 正常な理性を備えていること

    ③ 分別があること

    ④ 遺言された物の運営に長じていること

    ● 遺言人の条件:

    遺言人の遺言が有効なものとなるためには男女を問わず、以下のことが条件付けられます:

    ① 成人

    ② 理性と分別を備えていること

    ③ 年少者でも十分な理性を備えた者

    ● 遺言の方法:

    遺言は遺言人の口頭による言葉でも、あるいは文面でも有効です。しかし諍い事の原因を作らないようにも、文面にした上で証人を立てることが推奨されています。

    イブン・ウマル(彼らにアッラーのご満悦あれ)によれば、アッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「遺言するための何かを所有しているムスリムはその義務として、それに関する遺言をしたためることなく2晩過ごすことはない。」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[3]

    ● 遺言が有効となる物:

    遺言はムスリムであるかどうかを問わず、物を所有する権利のある特定の者に対して行うことが出来ます。またその際遺言の対象となる物は、合法的な利益を備えたものでなければなりません。ゆえにモスクやアーケード、学校などを遺言することは有効です。

    ● 遺言の形:

     1-遺言は自分の死後にその娘を嫁がせたり、年少者の面倒を頼んだり、遺産の3分の1を振り分けたりすることなど、特定の物事の遂行に関連した形において行うことが出来ます。これは1種の代行であり、それを遂行する者は報奨を得るでしょう。

    2-また遺言は、例えば遺産の5分の1を貧者や学生、アッラーの道に奮闘する者などを対象としたり、あるいはモスク建設や飲料水用の井戸の採掘などの慈善行為において財産を施したりするという形をとることも出来ます。

    ● 遺言は遺産相続の権利のない貧しい両親や、近親に行うことが奨励されています。というのもそうすることで、サダカと近親間の関係改善を両立させることが出来るからです。

    ● 遺言の改変に関して:

    遺言はよいことに関連していなければなりません。それでもし遺言人がそれでもって遺産相続人への何らかの害悪を意図していたとしたら、それは罪深い行いであり、禁じられているものです。

    また遺言を受けた者やその他の者が遺言を改変することは禁じられています。

    ただもし遺言の中に何らかの間違いや、あるいは罪深い物事を発見した場合は、最良の手段でもって遺言人に忠言し、かつ彼を不正や罪悪から押し留めることがスンナです。もしそれでも遺言人が耳を貸さなかったような場合には、公正と全員の合意、及び故人からの言付けの遵守を意図し、遺言を受けた者たちの間で解決法を見出すように努めます。

    至高のアッラーはこう仰られました:-それ(遺言)を聴いた後に改変するような者がいれば、罪はその改変者にこそある。実にアッラーは全てを聴かれ、ご存知になられるお方。また遺言人の(その遺言における)間違いや罪を発見した場合には、彼ら(遺言を受けた者たち)の間で解決策を探しても問題はない。実にアッラーは赦し深く慈悲深い方である。,(クルアーン2:181-182)

    ● アッラーに対する不服従的内容を含む遺言に関して:

    遺言人がムスリムであるかどうかに関わらず、異宗教の崇拝施設や非合法な遊技場の建設、卑猥な物や歌謡曲などを売る店への関与、墓廟建築など、アッラーに対する不服従的内容を含む遺言は無効かつ非合法です。

    このような遺言をする者は罪深い者であり、もしその遺言が遂行されて人々が腐敗したり迷妄に陥ったりした場合、その罪はその遺言人が背負うことになります。

    ● 遺言の効力に関して考慮すべき時点:

    遺言の効力に関して考慮すべき時点は、遺言人の死期です。

    それでもし遺言人がある遺産相続者に財産譲渡の遺言を残したものの、遺言人の死期に彼が遺産相続権を失ってしまっていた‐例えば遺言人に息子がいない時にその兄弟に対して遺言したが、その後息子が誕生した‐ような場合、その遺言は有効とみなされます。[4]

    またもし遺言人が遺産相続者ではないある者に遺言を残したものの、遺言人の死期には彼が遺産相続者になっていた‐例えば遺言人に息子がいる時にその兄弟に対して遺言したが、その後その息子が他界してしまった‐ような場合、彼に対するその遺言は他の遺産相続人が許可しない限り無効となります。

    ● 人が財産を後にして死んだら、まずそこから‐もしあるならば‐彼の債務分を取り除いて支払います。それから遺言分も取り除き、故人が命じた通りにそれを遂行します。そしてその残りを、遺産相続人の間で分配するのです。

    ● 遺言を受けた者の行動に関して:

    遺言の対象となるのは1人であっても、複数でも構いません。

    もし遺言の対象が複数である時に各人に何らかの制限を定めた場合、その制限は有効なものとみなされます。

    また何か1つの物に関して2人の者に遺言するような‐例えば遺言人の子息の世話をしたり、あるいは財産の管理をしたりすることなど‐場合、両者ともそこにおいて相手の意見を尊重しながら行動しなくてはなりません。

    ● 遺言を承諾する時期:

    遺言を受ける者が遺言を承諾するのは、遺言人の存命中でも他界後でも構いません。そして遺言人の存命中であれ他界後であれその遺言を受けるのを拒否するならば、その権利はなくなります。

    ● 遺言人が「何某に、(遺産相続人である)何某‐例えば息子‐と同様の財産を譲渡する」という風に遺言した場合、彼にはその通りの分け前が与えられます。一方「何某に自分の財産の一部を譲渡する」とか「いくらか譲渡する」とかいう表現で遺言した場合は、遺産相続人がその額を決めてその者に与えることになります。

    ● 荒廃した土地や無人の地にある者のように、統治者も遺言すべき者もないような所で人が他界した場合、その周りにいるムスリムが彼の残した財を所有して福利に適うような形でそれを利用することが許されます。

    ● 遺言書:

    遺言書を書くにあたっては、その文頭でアナス・ブン・マーリク(彼にアッラーのご満悦あれ)が伝えている以下の文章を記すことが推奨されます:

    (アナスは)言いました:「彼ら(預言者の教友たちのこと)は遺言書の文頭に、このように書いたものでした:

    “これは何某の息子である何某へ宛てた遺言です。私は彼(あるいは彼女)に、いかなる共同者も有しない唯一のアッラーの他には崇拝すべき何ものもないこと、そしてムハンマドがそのしもべであり使徒であることを証言することを忠言します。そしてまた審判の日が疑念の余地なく到来することと、アッラーが墓の中にいる者たちを蘇らせられることを証言するよう忠言します。”

    それから残す家族に、アッラーに対して真にタクワー[5]の念を持ち、お互いの諸事を改善し合い、また信仰者であるならばアッラーとその使徒に従うように勧め、またイブラーヒームがその息子たちとヤアクーブに忠言したところのものをもって忠言します:

    至高のアッラーはこう仰られました:-そしてイブラーヒームは、その息子たちとヤアクーブにそれを忠言した。「わが息子たちよ、実にアッラーはあなた方のためにその宗教(イスラーム)をお選びになられた。それゆえムスリムでなくして死んではならない。」,(クルアーン2:132)

    それから自分の望むことを遺言するようにします。」(アル=バイハキーとアル=ダーラクトゥニーの伝承[6]

    ● 遺言を無効化するもの:

    遺言は以下のことで無効となります:

    1-遺言を受けた者の精神状態が正常でない場合。

    2-遺言の対象とした物が損失した場合。

    3-遺言人がその遺言を撤回した場合。

    4-遺言を受けた者が遺言の承諾を拒否した場合。

    5-遺言を受けた者が遺言人より先に他界した場合。

    6-遺言を受けた者が遺言人を殺害した場合。

    7-遺言の期間が終了したか、あるいは遺言を執行する者に課せられた仕事が終了したかした場合。

    [1] 訳者注:「タクワー」は「自らを守る」という動詞の名詞形。つまりアッラーを畏れ、またそのお怒りと懲罰につながるような行い‐つまりかれが命じられたことに反したり、あるいは禁じられた事柄を犯したりすることなど‐を避けることで、自らの身をアッラーのお怒りや懲罰から守ることを意味します。

    [2] 訳者注:預言者ムハンマド(彼にアッラーの祝福と平安あれ)の示した手法や道のこと。ムスリムは可能な限り、彼のスンナを踏襲するべきであるとされています。

    [3] サヒーフ・アル=ブハーリー(2738)、サヒーフ・ムスリム(1627)。文章はアル=ブハーリーのもの。

    [4] 訳者注:相続法についての詳細については、「5-遺産相続」をご覧下さい。

    [5] 訳者注:「タクワー」は「自らを守る」という動詞の名詞形。つまりアッラーを畏れ、またそのお怒りと懲罰につながるような行い‐つまりかれが命じられたことに反したり、あるいは禁じられた事柄を犯したりすることなど‐を避けることで、自らの身をアッラーのお怒りや懲罰から守ることを意味します。

    [6] アル=バイハキー(12463)、アル=ダーラクトゥニー(4/154)。イルワーウ・アル=ガリール(1647)参照のこと。