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相続の遮蔽は、遺産相続学の中でも最も重要かつ大きな位置を占める題目の1つです。これについてよく知らないと、相続権を有する者から遺産を阻んだり、あるいはその権利もない者に遺産を分配してしまうこともあり得ます。

    3相続の遮蔽

    ] 日本語 [

    الحجب

    [اللغة اليابانية ]

    ムハンマド・ブン・イブラーヒーム・アッ=トゥワイジリー

    محمد بن إبراهيم التويجري

    翻訳者: サイード佐藤

    ترجمة: سعيد ساتو

    校閲者: ファーティマ佐藤

    مراجعة: فاطمة ساتو

    海外ダアワ啓発援助オフィス組織(リヤド市ラブワ地区)

    المكتب التعاوني للدعوة وتوعية الجاليات بالربوة بمدينة الرياض

    1429 – 2008

    3-相続の遮蔽

    ● 相続の遮蔽とは:元来遺産相続する権利のある者を相続から完全に、あるいは部分的に排除してしまう現象です。

    ● 相続の遮蔽は、遺産相続学の中でも最も重要かつ大きな位置を占める章の1つです。これについてよく知らないと、相続権を有する者から遺産を阻んだり、あるいはその権利もない者に遺産を分配してしまうこともあり得ます。そしてそのいずれの場合も、大きな罪と不正となるのです。

    ● 変動相続をする者:

    変動相続をする者は以下に挙げる通りです:

    ① 息子とその男性卑属

    ② 同父母の兄弟

    ③ 異母兄弟

    ④ 同父母の兄弟の息子

    ⑤ 異母兄弟の息子

    ⑥ 父親と同父母の兄弟(伯叔父)

    ⑦ 父親の異母兄弟(伯叔父)

    ⑧ 父親と同父母の兄弟(伯叔父)の息子

    ⑨ 父親の異母兄弟(伯叔父)の息子

    以上の者は故人の遺産を不規則な形で受け継ぐ者たちで、単独であれば全遺産を得ますが、そうでない場合は固定相続者の取り分を差し引いた後の残余分を他の者と共同相続します。それでもし故人がその後に兄弟の息子しか残さなかった場合、彼が全遺産を引き継ぐことになるのです。

    ● 複数の相続人の状態:

     複数の相続人がいる場合、3つのケースが想定されます:

     1-相続権を有する男性のみが集結した場合:その中からは、以下の3人の者しか相続しません:①父親、②息子、③夫。

     そしてその遺産配分は以下のようになります:

    相続人

    相続人の

    相続率

    相続分の

    分割における共通項

    相続人の

    取り分

    備考

    父親

    6分の1

    12

    2

    固定相続

    息子

    残余分

    7

    変動相続

    4分の1

    3

    固定相続

     2-相続権を有する女性のみが集結した場合:その中からは、以下の5人の者しか相続しません:①娘、②息子の娘、③母、④妻、⑤同父母の姉妹。

     そしてその遺産配分は以下のようになります:

    相続人

    相続人の

    相続率

    相続分の

    分割における共通項

    相続人の

    取り分

    備考

    2分の1

    24

    12

    固定相続

    息子の娘

    6分の1

    4

    固定相続

    6分の1

    4

    固定相続

    8分の1

    3

    固定相続

    同父母の姉妹

    残余分

    1

    変動相続

     3-相続権を有する全ての男女が集結した場合:その中からは、以下の5名しか相続しません:①母親、②父親、③息子、④娘、⑤夫婦のいずれか。

     そして⑤が妻である場合、遺産配分は以下のようになります:

    相続人

    相続人の

    相続率

    相続分の

    分割における共通項

    相続人の

    取り分

    備考

    母親

    6分の1

    24

    4

    固定相続

    父親

    6分の1

    4

    固定相続

    息子

    残余分

    13

    共同の

    変動相続

    (男女の相続の比率は2:1)

    8分の1

    3

    固定相続

     一方⑤が夫である場合は、以下のようになります:

    相続人

    相続人の

    相続率

    相続分の

    分割における共通項

    相続人の

    取り分

    備考

    母親

    6分の1

    12

    2

    固定相続

    父親

    6分の1

    2

    固定相続

    息子

    残余分

    3

    共同の

    変動相続

    (男女の相続の比率は2:1)

    4分の1

    3

    固定相続

    相続の遮蔽の区分

    ● 相続の遮蔽は2種類に区分されます:

     1-性質による相続の遮蔽:

    これは、遺産相続者自身にそもそも相続を禁じられるような要素‐奴隷状態、殺人、宗教の相違‐が存在している場合です。これらの要素は誰にでも生じる可能性はあり、また誰でもこれらの要素を有する者は遺産相続を禁じられます。そして遺産相続においてその者は、あたかも存在しない者のように見なされるのです。

     2-個人による相続の遮蔽:

     ここでのこの意味は、本来相続権を有する者が別のある相続人の存在によって、その相続を阻まれることを示しています。

     これは更に2種類に分けられます:

    1-削減をもたらす遮蔽:

     これはその者の相続を遮蔽する者の存在により、遮蔽された者の相続分が減少してしまうことです。これは全ての相続人に起こり得ます。

     削減をもたらす遮蔽は更に2種類に区分されます:

    ① 削減の理由が権利の降格であるもの:これには4種類あります:

         1-相続を遮蔽された者がある額の固定相続分から、より少ない固定相続分への降格を余儀なくされる場合:このようなことが起こりうるのは、①夫、②妻、③母親、④息子の娘、⑤異母姉妹の5種類の者です。例えば、本来遺産の2分の1を得るはずの夫の取り分が、4分の1に削減されることなどが挙げられます。

         2-相続を遮蔽された者がある額の変動相続分から、より少ない固定相続分への降格を余儀なくされる場合:このようなことが起こりうるのは、①父親と、②祖父のみです。

         3-相続を遮蔽された者がある額の固定相続分から、より少ない変動相続分への降格を余儀なくされる場合:このようなことが起こりうるのは娘、息子の娘、同父母の姉妹、異母姉妹など遺産の2分の1を得る権利を有するはずの者に、その兄弟が居合わせた場合です。

         4-相続を遮蔽された者がある額の変動相続分から、より少ない変動相続分への降格を余儀なくされる場合:このようなことが起こりうるのは、他人と共に変動相続するような者です。例えば同父母の姉妹や異母姉妹は、娘や息子の娘と共にある時、彼女らの固定相続分を差し引いた後の残余分を全て‐つまりここでは2分の1‐得る権利がありますが、もし自分たちの兄弟が居合わせた場合には彼らと共同の変動相続をすることになり、相続分も減少します。 

    ② 削減の理由が相続人の過密である場合:

    1-固定相続における相続人の過密:これは、①祖父、②妻、③娘(複数)、④息子の娘(複数)、⑤同父母の姉妹(複数)、⑥異母姉妹(複数)、⑦異父兄弟姉妹(複数)の7種の者に起こり得ます。例としては、娘2人や姉妹2人が遺産の3分の2を共同相続する場合が挙げられます。

    2-変動相続における相続人の過密:これは複数の息子や兄弟、伯叔父などの間で起こります。例としては、2人以上の兄弟が共同相続する場合などが挙げられます。

    3-遺産の合計額に比した相続人の過密:これは固定相続人が多い場合に起こり得るケースです。

    2-完全遮蔽:

    これはその者の相続を遮蔽する者の存在により、遮蔽された者を相続から完全に遮蔽してしまうことです。これは①父親、②母親、③夫、④妻、⑤息子、⑥娘の6種の者を除く全ての相続人に起こり得ます。

    ● 個人による相続の遮蔽の一般法則:

     1-故人の尊属に属する全ての相続人は、自分と同じ種類で自分の上の世代に属する者の相続を遮蔽します。例を挙げれば父親は祖父とそれより上の、そして母親は祖母とそれより上の世代の尊属の相続を阻むのです。

     2-故人の卑属に属する全ての男性相続人は、自分と同じ種類の者であるかどうかに関わらず、自分より下の世代に属する者の相続を遮蔽します。例を挙げるならば、息子は息子の息子や息子の娘の相続を阻みます。

     一方故人の卑属に属する女性相続人も、自分より下の世代に属する者の相続を遮蔽します。女性相続人が全遺産の3分の2を占有する場合、世代において自分より下の全女性の相続を阻みますが、もし彼女らに共同相続する兄弟がいた場合、彼女らは彼らと共に残余分を変動相続します。

     3-故人の尊属と卑属は例外なく、傍系に属する男性と女性の相続を遮蔽します。

     ここで示す傍系とは、以下の者たちです:①同父母あるいは異母兄弟姉妹、②その息子たち、③異父兄弟姉妹、④父親にとっての同父母あるいは異母兄弟(伯叔父)、⑤その息子たち。

     尚女性に関しては、卑属である場合でなければ傍系の相続を遮蔽しません。つまり娘や息子の娘らは、異父兄弟姉妹の相続を阻みます。

     4-傍系に属する者は、相互に相続の遮蔽を行います。それで変動相続する傍系の者は、故人から見て自分より近親性や親等、血の濃さにおいて劣る者の相続を阻みます。

     例を幾つか挙げましょう:

     異母兄弟は同父母の兄弟、あるいは他の者と共同相続する同父母の姉妹によって相続を阻まれます。

     同父母の兄弟の息子(甥)は同父母の兄弟、他の者と共同相続する同父母の姉妹、異母兄弟、他の者と共同相続する異母姉妹によって相続を阻まれます。

     異母兄弟の息子は上記の4種の者に加えて、同兄弟の息子によっても相続を阻まれます。

     父親にとって同父母の兄弟(伯叔父)は上記の5種の者に加え、異母兄弟の息子によっても相続を阻まれます。

     父親にとっての異母兄弟(伯叔父)は上記の6種の者に加え、父親にとって同父母の兄弟(伯叔父)によっても相続を阻まれます。

     父親にとって同父母の兄弟(伯叔父)の息子は上記の7種の者に加え、父親にとっての異母兄弟(伯叔父)によっても相続を阻まれます。

     父親にとっての異母兄弟(伯叔父)の息子は上記の8種の者に加え、父親にとって同父母の兄弟(伯叔父)の息子によっても相続を阻まれます。

     一方異父兄弟姉妹は直系の男性尊属、あるいは男性卑属によって、その相続を阻まれます。

     5-既に示したように直系尊属は直系尊属によって、直系卑属は直系卑属によってでしか相続を阻まれません。また傍系は直系尊属と直系卑属、及び傍系自身によって相続を阻まれます。

     6-相続人は相続の完全遮蔽に関し、4種類に区分されます:

    ① 両親や息子と娘のように、他の者の相続を阻むことはあっても自分が相続を阻まれることのない者。

    ② 異母兄弟姉妹のように、自分が相続を阻まれることはあっても他の者の相続を阻むことのない者。

    ③ 夫と妻のように、他の者の相続を阻むことも自分が相続を阻まれることもない者。

    ④ それ以外の相続人のように、他の者の相続を阻むことと自分自身の相続を阻まれることの両方ともある者。

     7-奴隷の解放主である男女は、故人(解放した元奴隷のこと)のいかなる親族の存在によってもその相続を遮蔽されます。