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生活費の負担とは自分がそれを請け負う者に対して、衣食住などに関する十分な物資の提供をすることです。

    生活費の負担

    ] 日本語 [

    النفقات

    [اللغة اليابانية ]

    ムハンマド・ブン・イブラーヒーム・アッ=トゥワイジリー

    محمد بن إبراهيم التويجري

    翻訳者: サイード佐藤

    ترجمة: سعيد ساتو

    校閲者: ファーティマ佐藤

    مراجعة: فاطمة ساتو

    海外ダアワ啓発援助オフィス組織(リヤド市ラブワ地区)

    المكتب التعاوني للدعوة وتوعية الجاليات بالربوة بمدينة الرياض

    1429 – 2008

    11-生活費の負担

    ● 生活費の負担とは:自分がそれを請け負う者に対しての、衣食住などに関する十分な物資の提供のことです。

    ● 生活費の負担の徳:

    1-至高のアッラーはこう仰られました:-昼に夜に、密かに露わに財を施す者たちには、その主の御許に報奨があるのである。彼らは恐れることもなければ、悲しむこともないのだ。,(クルアーン2:274)

    2-アブー・マスウード・アル=アンサーリー(彼にアッラーのご満悦あれ)によれば、預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「アッラーからの報奨を望んでムスリムが家人に費やすのならば、それは彼にとってのサダカ(施し)となるであろう。」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[1]

     3-アブー・フライラ(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「アッラーの使徒(彼にアッラーからの平安と祝福あれ)は言いました:“寡婦や困窮者を援助することに奔走する者は、アッラーの道において奮闘する者か、あるいは夜はサラー(礼拝)し昼はサウム(いわゆる断食)をして過ごす者のようである。”」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[2]

    ● 妻に対しての生活費の負担:

    1-妻に対しての衣食住などを常識的な程度において負担することは、その夫の義務です。そしてその形式は風土や時代、夫婦の状況や習慣によって大きく左右されます。

    ジャービル・ブン・アブドッラー(彼らにアッラーのご満悦あれ)によれば、預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「あなた方の生命と財産はあなた方にとって侵すべからざる神聖なものである…(中略)…女性において、アッラー(のお怒りの原因となるような物事)から身を慎むのだ。あなた方はアッラーの御言葉において彼女らの肉体を合法なものとしたのだぞ…(中略)…そしてあなた方には適切な形で、彼女たちに生活の糧と衣服を提供する義務があるのだ。」(ムスリムの伝承[3]

    2-夫は暫定離婚中[4]の妻に対し、その衣服や住居の提供を含む拠出を負担する義務があります。但し、彼女と一緒に時間を過ごす義務はありません。

    3-婚姻契約の破棄や離婚によって完全離婚の形で離別する妻は、もし妊娠していれば夫がその生活費を負担する義務があります。そしてもし妊娠中でない場合は生活費を払う義務も、住居を提供する義務もありません。

    4-死別した妻は、夫の親族などから生活費や住居を提供される権利がありません。しかしもし妊娠中であれば、夫の遺産からそれらの用途のために適当な額を受給することが出来ます[5]。もし夫に遺産がないような場合は、彼の遺産相続人の中の経済的に余裕がある者がそれを負担するようにします。

    5-不従順な妻、夫が拘束されている妻らは生活費を受給する権利がありません。但し妊娠中の女性は別です。

    ● 不在の妻の権利:

     1-夫が不在中妻に生活費を負担しなかった場合、その費用を全額支払う義務があります。

     2-夫にとって生活費や衣服や住居などの捻出が困難になった場合、あるいは夫が生活費を置いていかずに家を留守にし、妻がその費用を夫の財産から得ることも叶わないような時には、彼女が望むなら統治者や裁判官[6]の許しを得て婚姻契約の破棄をする権利があります。

    ● 両親や子供、親戚に対する生活費の負担の法的位置づけ:

     両親とその尊属、そして彼らの血縁関係に至るまで、生活費を負担することは義務となります。尚母親に対しては、父親よりも優先して善行や経済的負担の援助をしなければなりません。

     また子供とその卑属に関しても、生活費の負担が義務付けられます。彼らの血縁関係に関しては、もし拠出する側が裕福で彼らが貧しい場合にそれが義務となります。

     尚父親の子供に対する生活費の負担は、完全かつ独立した形で義務付けられます。

     1-至高のアッラーはこう仰られました:-授乳を完遂したい者は、子供を母親に丸2年間授乳させよ。そしてその父親は、彼女の生活の糧と衣服を適切な形で負担しなければならない。,(クルアーン2:233)

     2-アブー・フライラ(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「ある男が言いました:“アッラーの使徒よ、誰と最もよく付き合うべきですか?”(預言者)は言いました:“あなたの母親、次いであなたの母親、次いであなたの母親だ。その次は父親で、それからより近縁の者から近縁の者にである。”」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[7]

    ● 近親者の生活費を負担する条件:

    1-それが固定額であれ変動額であれ、自分が遺産相続をする者に対しては生活費の負担義務があります。

    2-両親及びその尊属、あるいは子供及びその卑属のいずれにも属していない親戚に生活費の負担が課されるのは、負担する者が負担される者の遺産相続者であり、かつ前者が裕福で後者が貧しく、また同じ宗教を共有している場合のみです。

    ● 奴隷[8]の権利:

     奴隷の主人は、その生活費を負担する義務があります。

    奴隷男性が結婚適齢期になったら、その主人は彼を結婚させるなり、あるいは売却するなりします。

     また奴隷女性が結婚を望んだら、その主人は彼女を結婚させるか、または売却するか、あるいは彼女と性交渉を持つかします。

    ● 動物の飼育費の負担:

    動物類や鳥類などを所有する者は、その飼育費を負担しなければなりません。それらの主人はそれらに食べ物や飲み物を与えたり、またそれらの利益に適う物事を行います。そしてそれらが負担出来る以上のものを課したりしてはなりません。

    それらの飼育を賄えないようになったら、売却したり、賃貸したり、あるいは食用可能なものであれば屠殺して食べるなりします。但し病気や老化といった理由でそれらを安楽死させてはならず、そのような場合主人はそれらに適当な世話と配慮をしなければなりません。

    ● 生活費の負担義務を有する者の状況:

    1-生活費の負担義務が課せられている者が貧しい場合、まずその負担を義務付けられている者‐つまり妻、子供とその卑属、両親とその尊属、奴隷‐から優先的にその拠出を始めます。

    それでまずは自分自身、それから状況の苦楽を問わず生活費の負担が義務付けられるような者‐つまり妻、奴隷、家畜‐の負担を負います。そしてそれから、例え自分がその遺産相続者でなくとも生活費の負担が義務付けられるような者‐つまり両親及びその尊属、子供及びその卑属-の負担を負います。そしてその後、固定額か変動額かを問わず、自分がその遺産相続権を有している他の親戚への負担へと移行します。

    2-一方生活費の負担義務を有する者が裕福である場合、上記の者たち全員に拠出し、各方面への義務を全うします。

    [1] サヒーフ・アル=ブハーリー(5351)、サヒーフ・ムスリム(1002)。文章はアル=ブハーリーのもの。

    [2] サヒーフ・アル=ブハーリー(5353)、サヒーフ・ムスリム(2982)。文章はアル=ブハーリーのもの。

    [3] サヒーフ・ムスリム(1218)。

    [4] 訳者注:詳しくは「2-離婚」の章の「暫定離婚と完全離婚」の項を参照のこと。

    [5] 訳者注:そもそも妻は夫の遺産相続権がありますが、この期間の生活費負担はそれとは別です。

    [6] 訳者注:イスラーム法で裁く統治者や裁判官のことです。そのような機関が存在しない非ムスリム国や地域に居住するムスリムは、そこにおけるイスラーム的権威である学者やイマームなどに依拠することになります。

    [7] サヒーフ・アル=ブハーリー(5971)、サヒーフ・ムスリム(2548)。文章はムスリムのもの。

    [8] 訳者注:イスラームは奴隷の存在に対して積極的なわけではなく、むしろ奴隷になった者たちの解放を折に触れて奨励しています。詳しくは「4-ムアーマラート」の章の「26-奴隷の解放」の項を参照のこと。