起訴と証拠
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裁決
6起訴と証拠
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القضاء
6- الدعاوى والبينات
[اللغة اليابانية ]
ムハンマド・ブン・イブラーヒーム・アッ=トゥワイジリー
محمد بن إبراهيم التويجري
翻訳者: サイード佐藤
ترجمة: سعيد ساتو
校閲者: ファーティマ佐藤
مراجعة: فاطمة ساتو
海外ダアワ啓発援助オフィス組織(リヤド市ラブワ地区)
المكتب التعاوني للدعوة وتوعية الجاليات بالربوة بمدينة الرياض
1429 – 2008
6-起訴と証拠
● 起訴とは:他人が有する何らかの権利が、自らに帰属すると主張することです。
● 原告とは:権利を要求する者のことです。もしそれを要求せずに沈黙する場合は、何も起こりません。
● 被告とは:権利を要求される者のことです。もしそのことについて沈黙したとしても、放免はされません。
● 起訴の基幹:
起訴の基幹は3つあります:
① 原告
② 被告
③ 訴訟の対象
● 証拠:証人であれ誓いの言葉であれ状況証拠であれ、権利の帰属を明白にするあらゆる物事のことです。
● 起訴が有効であるための条件:
① 情報が詳細にまとめられていること:というのも裁決はそれに基づくことになるからです。
② 訴訟の対象が明白であること。
③ 原告がその権利の帰属の主張を明白に行うこと。
④ 訴訟の対象が債務である場合、その支払い期限が既に過ぎていること。
● 証拠の状況:
1-証拠は時に2人の証人であったり、男性1人と女性2人の証人だったり、また時には4人の証人だったり、3人の証人だったり、あるいは1人の証人と原告の誓いであったりします。これらについての詳細は後述します。
2-裁判官がそれでもって裁決を下すような証言には、その証人が宗教を遵守し良識を備えた者であることが条件付けられます。またもし彼が証言とは異なる事実を知った場合、それに則って裁くことは許されません。もし証人の宗教性や良識について不明なところがあれば、その情報を求めます。また対立する当事者が、相手方の証人がその証言を受け入れられるに値しない者であると主張した場合、その主張の根拠の提示を求められます。そしてそのことに関して3日間の猶予を与えられますが、その期間中に証拠を提示出来なかった場合、その証人の証言が受け入れられ、それに基づいた裁きが下されることになります。
● 被告には3つの種類があります:
1-人々の間で、その宗教性と敬虔さで知れ渡っており、また訴えられるようなことをしないことが明白であるような者。このような者は拘束も打擲もされることなく、逆に訴えた側が懲戒されることになります。
2-その善良さも放縦さも判別不明であるような者。このような者は権利保護の意味からも、その状態が明白になるまで拘束はしません。
3-放縦さや罪悪性で通っていたりするなど、他人から訴えられるような要素を抱えている者。このような者は人々の権利保護の意味からも、罪状を自白するまで拘束や打擲によって問いただします。
● 裁判官が、証人が宗教を遵守し良識を備えた者であると認めた場合、その証言に基づいて裁決を下します。そしてそのことに関しては他人の裏づけや推薦などを必要としません。また証人が宗教を遵守し良識を備えた者ではないことを知った場合には、その証言を考慮には入れません。そしてもし証人の状態が不明である場合には、その者(たち)が宗教を遵守し良識を備えた者であることを証言する2名の者(そしてまた彼らも宗教を遵守し良識を備えた者でなければなりません)を証人として連れて来るよう、原告に要求します。
● 裁判官の裁決の特徴:
裁判官の裁決は非合法な物事を合法としたり、合法な物事を非合法とするような類のものであってはなりません。そして原告の証拠が正しいものであれば、彼は彼の主張する権利を手に入れます。尚もし分からずに嘘の証言などの虚偽の証拠によってその主張を認める裁決を下してしまった場合、その者は例えそのことが暴露されてはいなくてもその権利を手にすることを許されません。
ウンム・サラマ(彼女にアッラーのご満悦あれ)によれば、アッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「あなた方は私に争いの調停を求める。そしてあなた方の内のある者は、他の者よりも論証において雄弁である。ゆえに私がそのような者に対し、その同胞の何らかの権利を(不当に)得るような判決でもって裁いてしまったとしたら、私はその者に地獄の炎の一片を差し出しているのだ。ゆえにそれを手にするのではない。」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[1])
● その場にいない被告に対しての裁決の形:
証拠によって原告の権利が確定した場合、その権利がアッラーに対するものではなく人間に対するものであり、かつ被告がサラー(礼拝)を短縮出来る距離[2]以上の遠隔地にあり裁決の場には立ち会うことが出来ない状態にある限りにおいて、その場にいない被告に対して裁決を下すことは許されます。しかしその後被告が戻って来たら、彼は改めて自分の弁明を行うことも出来ます。
● 起訴はどこで行われるか?
起訴は被告の居住している土地で行われます。というのも裁決は被告の無実を前提として始められますが、彼が逃亡したり、あるいは理由もなしに出頭を延期したり、遅延したりした場合には、その懲戒として彼を罰する必要があるからです。
● 当事者に関するいかなる推薦や批評、報告なども、宗教を遵守し良識を備えた2人の者からのものでない限り受け入れられません。尚通訳に関しては宗教を遵守し良識を備えた者1人でも問題ありませんが、2人いるならばそれに越したことはありません。
● 裁判官の間ので行われる書簡のやり取りに関して:
裁判官が何らかの係争に関して別の裁判官に送る書簡などは、売買や賃貸、遺言や婚姻、また離婚や傷害、報復刑など、人間の間の権利に関することであれば受け入れられます。
しかし姦淫や飲酒などの固定刑に関しては、裁判官は別の裁判官に書簡などを送るべきではありません。というのもこれらの類の事は本来公けにすることを控えるべきであり、かつそのことに関するあらゆる疑念や無実の可能性を解消しておかなければならないからです。
● 訴訟の対象に関して:
原告と被告が何らかの物件に関して互いの権利を主張することにおいては、6つの状況が考えられます:
1-物件が一方の手中にあり、そしてもう一方が何の証拠も提示出来ないような場合、それを手にしている者が自分の権利に関して誓いの言葉を行えば、その物件は彼のものとなります。また両方共に証拠を提示した場合も、それを手にしている者が自分の権利に関して誓いの言葉を行えば、その物件は彼のものとなります。
2-物件が両者の手中にあり、両者共に証拠がないような場合、両者共に自分の権利に関して誓いの言葉を行い、その物件を半分に分割します。
3-物件が原告と被告いずれの手中にもなく、また両者共に証拠がないような場合、くじ引きをします。そして当たりくじを引いた方が自分の権利に関して誓いの言葉を行い、それを手に入れます。
4-物件が誰の手中にもなく、原告と被告のいずれにも証拠がないような場合、両者共に自分の権利に関して誓いの言葉を行い、それを半分に分割します。
5-原告と被告の両者共に証拠を有しているものの、物件が誰の手中にもないような場合、それは両者の間で平等に分割されます。
6-物件が家畜や車両で、いずれかがそれに乗っており、またもう一方がその手綱あるいはハンドルを握っているような場合、前者が自分の権利に関して誓いの言葉を行えば、両者共に証拠を提示出来ない限りにおいてそれは彼のものとなります。
● 嘘の誓いの危険性:
他人の財産を不当に手に入れるために嘘の誓いをすることは、禁じられています。
預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「“(嘘の)誓いでもってムスリムの権利を得る者には、アッラーが地獄の業火を定め、そして天国を禁じられよう。”するとある者が彼に言いました:“アッラーの使徒よ、それが僅かな物であったらどうですか?”(預言者は)言いました:“例えそれがアラーク[3]の枝1本であっても、である。”」(ムスリムの伝承[4])
● 所有物の分割に関して:
何らかの弊害や代償を伴わずには分割不可能な所有物は、その共同者の同意なしに分割することが許されません。一方いかなる弊害も代償も伴わずに分割することが可能な所有物は、共同者の一方がその分割を要求した場合、もう一方はその実行に同意しなければなりません。共同者は所有物の分割を自分たちで、または彼らが選んだ分割者によって、あるいは裁判官に依頼して行っても構いませんが、その報酬は分割する所有物に応じて設定します。そして一旦分割したりくじ引きによって割り当てたりしたら、分割を決行することが義務付けられます。
● 訴訟終結の形:
訴訟は以下の要素で確定し、終結を見ます:
① 認諾
② 証言
③ 宣誓
① 認諾
● 認諾とは:責任能力を有する者[5]が自らの選択によって、自らに課せられた物事を認める表明をすることです。
● 認諾が受け入れられる者:
認諾が受け入れられるには、以下の条件を満たしている必要があります:
① 成人していること
② 正常な理性を備えていること
③ 自らの選択でもって認諾すること
④ 破産者ではないこと
尚、認諾は最も有力な証拠となります。
● 認諾の法的位置づけ:
1-認諾はその義務性が真実である場合、それがザカー(喜捨)などのようにアッラーに対する義務であるか、あるいは債務などのように人間に対する義務であるかを問わず、行うことが義務となります。
2-認諾は姦淫罪などのように、責任能力を有する者に対する至高のアッラーの固定刑である場合、行うことは合法とされます。しかしそれを公けにはせず、悔悟することがより優先されます。
3-一旦認諾が有効なものとなり、かつ確定したら、それが人間の権利に関連するものである限り撤回することは出来ません。一方もしそれが姦淫罪や飲酒罪、窃盗罪などの固定刑のようにアッラーの権利に関するものであれば、後に撤回することが可能になります。というのも固定刑はそこに少しでも疑念や無実の可能性が残されている場合、その実施を控えなければならないからです。
② 証言
● 証言とは:アッラーが権利の確定のために定められたものであり、「私は~を証言する」「私は~を見た」「私は~を聞いた」などといった表現でもって自らが知っていることを伝達することです。
至高のアッラーは仰られました:-あなた方の内の宗教を遵守し良識を備えた者2人を証人に立て、アッラーに向けて正しい証言をさせるのだ。,(クルアーン65:2)
● 証言が義務付けられる条件:
① 証言を求められること。
② 証言することが出来ること。
③ 証言することで自らの身体や尊厳、財産や家族に弊害が及ばないこと。
● 証言することの法的位置づけ:
1-人間の権利に関しての証言は、連帯義務[6]として共同体に課されます。そして証言を課された者がそれを行うことは、個人義務となります。
至高のアッラーは仰られました:-そして証言をせずに隠してはならない。それを隠蔽する者は罪深い心の持ち主なのだ。,(クルアーン2:283)
2-姦淫罪などといったアッラーの固定刑に関するそれのように、至高のアッラーの権利に関しての証言を行うことは合法ですが、行わないことの方が優先されます。というのもムスリムの罪は公にせず、隠しておくことが義務付けられるからです。しかしその者が放縦さでよく知られ、かつその罪を自ら公にしているような場合は別で、そのような場合は腐敗とそれを広める者を根絶するためにも証言することが優先されます。
3-いかなる者であろうと、知りもしないことを証言することは許されません。そして知識とは視覚や聴覚、または誰かの結婚や死亡の知らせなどの広く知れ渡った情報によって獲得されます。
● 虚偽の証言の法的位置づけ:
虚偽の証言は大罪[7]の1つであり、最も大きな犯罪の1つでもあります。虚偽の証言は他人の財産を不当に手に入れたり、権利を侵害したり、裁判官や法治者がアッラーの下した法でもって裁くことを妨害したりする理由ともなり得るからです。
アブー・バクラ(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)はこう3回繰り返して言いました:“大罪の内でも最大のものを教えようか?”(人々は)言いました:“ええ、アッラーの使徒よ。”(預言者は)言いました;“アッラーに対してシルクを犯すこと、そして親不孝だ。”そして(預言者は)座ると、寄りかかってこう言いました:“そして虚言(もその内の1つ)である。”」(アブー・バクラは)言いました:「そして彼(預言者)は、私たちが“もう黙ってくれたらいいのに”と思うまで、それを繰り返し言い続けました。」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[8])
● 証言を受け入れられるための条件:
1-正常な理性を備えた成人であること。ゆえに未成年は未成年同士の間である場合を除いては、その証言を受け入れられることはありません。
2-証言が言葉を発することによって行われること。尚音声言語障害者の証言は、筆記によって行われます。
3-イスラーム:ムスリムに対する非ムスリムの証言は、ムスリムが旅行中に行う遺言に関するもの以外受け入れられません。しかもそれはムスリムがいない状況下でのみ許されます。尚、非ムスリム間の証言は有効です。
4-正確な記憶力:ゆえに不注意な者からの証言は受け入れられません。
5-公正さ:時と場所に応じて変化しますが、以下の2つの点が考慮されます:
① 宗教を遵守していること:つまり宗教的義務を行い、非合法な物事を回避することです。
② 良識:つまり寛容さや美徳などの称えられるべき性質や行いを守り、かつギャンブルや魔術や諸々の悪徳といった卑下されるべき性質や行いを回避することです。
6-何の嫌疑もかけられてはいないこと。
● 証言に対する証言は、固定刑を除く全ての物事において受け入れられます。それで本来の証人が死亡や病気、あるいは意識不明などの理由で裁判官の前で証言することが出来なくなった場合、前もって本来の証人が彼の証言を委任していた者の2次的証言が受け入れられます。尚証言の委任は、「私の証言の証人となって下さい」などといった表現によって行われます。
証言を遮蔽する要素
● 証言を遮蔽する要素には8つあります:
1-近親性:詳しくは両親を始めとする尊属と、子供を始めとする卑属のことです。これらの関係にある者たちは近親性という嫌疑ゆえに、互いに対する証言を受け入れられませんが、有利になるのではなく却って不利になるような証言であれば受け入れられます。尚兄弟姉妹や叔父叔母などの近親性に関しては、有利不利に関わらずその証言が受け入れられます。
2-夫婦関係:夫の妻に対する証言も妻の夫に対する証言も、却って不利になるような証言ではない限り、受け入れられません。
3-共同経営者・所有者や奴隷[9]に対する証言のように、その証言が自らに利益をもたらすような立場にある者。
4-その証言によって自らの害悪が除去されるような立場にある者。
5-俗世における敵対関係:その者に災いや苦難がふりかかれば嬉しいような関係にある者が、敵対関係にある者です。このような関係にある者に対する証言は受け入れられません。
6-裁判官のもとで証言を行ったことがあり、その際に偽証などの理由でその証言が受け入れられなかった者。
7-部族主義など、何らかの偏向性がある者:このような者の証言は受け入れられません。
8-その者の側に立って証言をする者が、証言される者の主人であったり所有主であったりする場合。
証言の区分と証人の数
● これは7つに区分されます:
1-姦淫と同性愛行為に対する証言:宗教を遵守し良識を備えた、4人の男性の証人が必要です。
至高のアッラーはこう仰られました:-そしてムフサン[10]を姦淫で告発した後に4人の証人を呼んで来れない者は、80回の鞭打ち刑にせよ。そして(その後、)その者の証言はもう永久に受け入れてはならない。彼らは放埓者なのである。,(クルアーン24:4)
2-本当は必要最低限の生活をする経済力があるにも関わらず、ザカー(喜捨)を受給するために貧者を装っている者に対する証言:宗教を遵守し良識を備えた、3人の男性の証人が必要です。
3-報復刑や姦淫以外の固定刑、または裁量刑に関する証言:宗教を遵守し良識を備えた、2人の男性の証人が必要です。
4-売買や貸与、賃貸などの財産に関する問題、または婚姻や離婚や復縁などの諸権利に関するものなど、固定刑と報復刑以外の全ての問題に関しては男性2人、あるいは男性1人と女性2人の証言が必要です。また財産に関する問題に限っては、要求される数の証人が揃わない場合、男性の証人1人と原告の宣誓によってその証言が受け入れられます。
① 至高のアッラーはこう仰られました:-そしてあなた方の内の男性2人を証人に立てよ。あるいは男性2人でなくとも、あなた方が証人として十分であると思う男性1人と女性2人(でもよい)。(そして女性が2人というのは)一方が忘れたりしたら、もう一方が(彼女を)思い出させるためである。,(クルアーン2:282)
② イブン・アッバース(彼らにアッラーのご満悦あれ)によれば、アッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は宣誓と1人の証人でもって裁きました。(ムスリムの伝承[11])
5-授乳や出産や月経など、大方の場合男性が目にしない事柄に関する証言:男性の証人2人か、または男性の証人1人と女性の証人2人、あるいは女性の証人4人が必要です。また宗教を遵守し良識を備えた女性の証人1人でも可能ですが、それよりは2人の女性の方がより安全でしょう。また男性1人の証人も受け入れられますが、最善なのは前述の通りです。
6-ラマダーン月[12]の新月観測のように、宗教を遵守し良識を備えた男性1人の証人だけで十分なもの。
7-家畜の病気や、頭骨露出創や頭骨損傷創[13]などのように、医師1人あるいは獣医師1人だけの言葉で十分である場合。しかしもし可能であれば、医師2人の証言を取ります。
● 裁判官は報復刑と固定刑に関する件ではない限りにおいて、その信憑性が高いと判断した男性1人の証人と原告の宣誓をもって裁決を下すことが許されます。
● 財産に関する問題において、裁判官が男性1人の証人と原告の宣誓をもって裁決を下した後に証人がその証言を撤回した場合、その証人はその全額を罰金として没収されます。
● 証人が証言を撤回した場合:
財産に関する問題における証人が裁決後に証言を撤回した場合、その裁決が覆されることはありません。彼らはその不当な裁決によって生じた責任を負うことになりますが、それは彼らを証人として推薦した人々にまでは及びません。そしてもし証言の撤回が裁決前のことであった場合その裁決は無効となり、その者はそれに関し何の補償も問われません。
③ 宣誓
● 宣誓とは:アッラーの御名かかれの美名、あるいはかれの属性において誓うことです。
● 宣誓の合法性:
宣誓‐裁判官からの要求に応じて行われるもの‐は人の権利に関する訴えにおいてのみ、合法化されます。一方諸々のイバーダート[14]や固定刑などのアッラーの権利に関するものは、宣誓を求めることが出来ません。ゆえに「私は義務のザカー(喜捨)を払いましたよ」と言う者や、姦淫や窃盗などアッラーの固定刑が義務付けられる罪を否定する者に対して、宣誓を要求することは出来ません。それはつまりこの種の罪は暴露せずに隠しておくことが望ましいためであり、そのような事から改悛する機会を与えるためなのです。
● 原告が証拠の提示も出来ず、また被告が起訴の内容を否定した場合、被告は自らの無実を確証するための宣誓を要求されます。しかしこれは財産などに関する問題に限ったことで、固定刑や報復刑に対しては適用されません。
● 宣誓することで係争自体は終結しますが、しかしそれは正当な権利を無視するものではありません。原告は証拠の提示をしなければならず、それを否定する者には宣誓が課せられます。
1-イブン・アッバース(彼らにアッラーのご満悦あれ)によれば、預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「人が(他人を)訴えることで(即)与えられるのであれば、他人の生命や財産まで要求することであろう。しかし訴えられた者には、(それを打ち消すための)宣誓があるのだ。」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[15])
2-アムル・ブン・シュアイブがその父から、そして彼の父が彼の祖父から伝えるところによれば、預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「原告には証拠(の提示)があり、被告には宣誓がある。」(アッ=ティルミズィーの伝承[16])
● 裁判官はその裁量によって、原告にも被告にも宣誓を要求することが出来ます。宣誓の要求はより論拠の強い側に対して合法ですが、それは証拠の提示がない限り人は無実であるという基本に基づいているからです。それで証拠がない場合には、無実の証明は宣誓だけで十分とするのです。
● 宣誓の厳粛化に関して:
裁判官は、報復刑を適用されない傷害事件や莫大な財産が関わっている問題など重大性があると判断したものに関し、宣誓をすることになっている者がそれを要求した場合において、宣誓の厳粛化を行うことが許されます。
宣誓の時間的側面からの厳粛化はアスル(午後遅く)の後であり、場所的側面からの厳粛化はモスクの説教壇の上において行われます。
また裁判官が宣誓の厳粛化の要求に応じなくても支障はなく、一方宣誓を行う者が厳粛な宣誓を拒んだとしても、通常の宣誓を行いさえすれば宣誓の拒否とは見なされません。そして本来の宣誓の形としては、敢えて厳粛化しなくとも、アッラーの御名さえ言及されればそれでよしとするべきです。
● ムスリムであろうと啓典の民(ユダヤ教徒かキリスト教徒)であろうと、いかなる被告にも宣誓の権利があります。それで原告に証拠がなければ被告は宣誓を行いますし、啓典の民もまた相手に宣誓を要求する権利を有します。
例えばユダヤ教徒には次のように言うことが出来ます:「あなた方をファラオの一族から救われ、あなた方に海を渡らせ、あなた方を日差しから雲で護られ、あなた方に蜜とウズラをお恵みになられ、ムーサー(モーゼ)にトーラーを授けられたアッラーを思い出して下さい…」(アブー・ダーウードの伝承[17])
● 最悪の民:
1-アブー・フライラ(彼にアッラーのご満悦あれ)によれば、アッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「最悪の民とは何某にはある顔を見せ、また何某には別の顔を見せる2つの顔を持った者である。」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[18])
2-アーイシャ(彼女にアッラーのご満悦あれ)によれば、アッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「アッラーの御許で最も厭われる者とは、激しく口論する者である。」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[19])
りません。
[1] サヒーフ・アル=ブハーリー(2680)、サヒーフ・ムスリム(1713)。文章はアル=ブハーリーのもの。
[2] 訳者注:4ラクアの礼拝を2ラクアに短縮する減免措置が与えられる、一定の距離以上の旅行のことを指します。これはハナフィー学派での一般的な説では3昼夜の行程、ハナフィー学派を除く他の4大法学派では約90キロの距離です。
[3] 訳者注:植物の1種。その枝は、スィワーク(歯磨き用に用いる小枝)に最適とされます。
[4] サヒーフ・ムスリム(137)。
[5] 訳者注:つまり正常な理性を備えた成人であること。
[6] 訳者注:共同体内の誰かがそれを行いさえすれば、共同体内の他の者の義務が免除されるような類の義務のこと。これに対し、サラーやサウムのような個人義務は個々に課されてきます。
[7] 訳者注:「大罪(カビーラ)」とは、それに対し現世において刑罰が適用されたり、あるいはそれを犯すことで来世において地獄を警告されていたり、またアッラーのご慈悲からの放逐やかれのお怒りを招くこととされているものです。例としてはシルクや殺人、ズィナー(姦淫)や魔法、リバー(不法商取引)、親不孝、嘘の誓いなどがあります。
[8] サヒーフ・アル=ブハーリー(2654)、サヒーフ・ムスリム(87)。文章はアル=ブハーリーのもの。
[9] 訳者注:イスラームは奴隷の存在に対して積極的なわけではなく、むしろ奴隷になった者たちの解放を折に触れて奨励しています。詳しくは「4-ムアーマラート」の章の26「奴隷の解放」の項を参照のこと。
[10] 訳者注:「ムフサン」とは男女の別なく、成人ムスリムで精神的に健常な自由民で、婚姻の経験(つまり合法的な性交渉の経験)があり、慎ましく放縦ではない者のことです。
[11] サヒーフ・ムスリム(1712)。
[12] 訳者注:ヒジュラ暦9月のこと。いわゆる断食月。
[13] 訳者注:詳しくは「7報復刑と固定刑」の章の「⑤致命的ではない傷害の血債」の項を参照のこと。
[14] 訳者注:イバーダートとは一般的に諸崇拝行為など、アッラーと人間との間の諸々の取り決めを指します。一方社会法などに代表される人間と人間の間の諸々の取り決めなどは、ムアーマラートという名称によって括られます。
[15] サヒーフ・アル=ブハーリー(4552)、サヒーフ・ムスリム(1711)。文章はムスリムのもの。
[16] 真正な伝承。スナン・アッ=ティルミズィー(1341)。
[17] 真正な伝承。スナン・アブー・ダーウード(3626)。
[18] サヒーフ・アル=ブハーリー(7179)、サヒーフ・ムスリム(2526)。文章はアル=ブハーリーのもの。
[19] サヒーフ・アル=ブハーリー(7188)、サヒーフ・ムスリム(2668)。文章はアル=ブハーリーのもの。