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ズィンミーの契約とはジズヤ税を納め、イスラーム法規定を遵守することを条件に、イスラーム法治国家内に居住する非ムスリムのイスラームへの不信仰を認可すること。

    アッラーの道におけるジハード

    4ズィンミー(庇護民)の契約

    ﴿ الجهاد في سبيل الله 4- عقد الذمة

    ] 日本語– Japanese – ياباني [

    ムハンマド・イブラーヒーム・アッ=トゥワイジュリー

    翻訳 : サイード佐藤

    校閲 : ファーティマ佐藤

    2009 - 1430

    ﴿ الجهاد في سبيل الله 4- عقد الذمة

    « باللغة اليابانية »

    محمد بن إبراهيم التويجري

    ترجمة: سعيد ساتو

    مراجعة: فاطمة ساتو

    2009 - 1430

    4-ズィンミー(庇護民)の契約

    ● ズィンミーの契約とは:ジズヤ税を納め、イスラーム法規定を遵守することを条件に、イスラーム法治国家内に居住する非ムスリムのイスラームへの不信仰を認可すること。この契約はイスラーム法治国家の長、あるいはその代理との間で締結されます。

    ● ズィンミーとは:啓典の民であるユダヤ教徒とキリスト教徒のことです。ゾロアスター教徒はある部分においては啓典の民と同様の扱いを受けますが、根本的な部分においては別の扱いを受けます。つまりジズヤ税を徴収されますが、ムスリムは彼らの女性とは婚姻関係を結べず、彼らの屠った肉も食用出来ません。

     一方シルク[1]の徒に関しては、アッラーとその使徒、信仰者たちのもとで庇護の保障はありません[2]。ゆえに彼らがイスラームを提示されて拒否した場合、ムスリムと交戦状態に入ることになります[3]。というのもイスラームはシルクを認可しないからです。

     また啓典の民に関しては、以下の3つの中から選択することになります:①イスラーム、②ジズヤ税、③交戦。[4]

    ● ジズヤ税の割合:

     イスラーム法治国家の長、あるいはその代理は課税対象の経済力を考慮しつつ、金銀や貨幣、あるいは衣服や鉄や家畜などの合法な物資に対してジズヤ税を課します。

     尚未成年者や女性、奴隷や貧困者、正常な理性を備えていない者、障害者、僧侶に対してはジズヤ税の徴収が免除されます。

    ● ズィンミーが酒や豚肉など、彼らにとっては合法であってもムスリムにとっては非合法とされる収入源からジズヤ税や地税、血債や借金などの義務を果たしたとしても、それを受領することは合法です。

    ● ズィンミーに関する法規定:

     イスラーム国家はズィンミーがジズヤ税を払ったらそれを受け入れ、その後は彼らの生命を保証しなければなりません。またもし彼らがイスラームに改宗すれば、ジズヤ税の義務は解消されます。

     1-至高のアッラーはこう仰られました:-啓典を授かっている者たちの内で、アッラーと審判の日を信仰せず、またアッラーとその使徒が禁じた物事を禁じもせず、真理の宗教に従わない者たちと、彼らが屈服してジズヤ税を進んで支払うまで戦え。,(クルアーン9:29)

     2-至高のアッラーはこう仰られました:-アッラーは宗教ゆえにあなた方に戦いを仕掛けたり、あなた方を家から追い出したりしなかったような者たちに対して、あなた方が善行を施したり公正に接したりすることを禁じられてはいない。実にアッラーは公正な者を愛でられるのだ。,(クルアーン60:8)

    ● 啓典の民でイスラームを受け入れた者の徳:

     アブー・ムーサー(彼にアッラーのご満悦あれ)によれば、アッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「3種類の者には倍の報奨がある:啓典の民の内の者でその預言者を信じ、ムハンマド(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)を信じた者。また至高のアッラーに対する義務と、その主人に対する義務を果たした奴隷身分のしもべ。そして奴隷女性を所有する者で、彼女をよく躾け、よく教育し、その後解放して結婚する者。これらの者には倍の報奨があろう。」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[5]

    ● ズィンミーがムスリムと同様に扱われるべき権利:

     イスラーム法治国家の長はズィンミーに対し、その生命と財産、名誉においてムスリムと同様の権利を認めなければなりません。また姦淫など、彼ら(啓典の民)が非合法と見做している物事に関しては固定刑[6]の実施を行い、酒類や豚肉の取引など彼らが合法と見做している物事に関しては刑の実施を行いません。但しそのような物事を公に行うことは禁じられます。

    ● ズィンミーがムスリムと同等に扱われない側面:

     ズィンミーは存命中も死後も、ムスリムとは異なっている必要があります。それはムスリムが彼らに惑わされないようにするためで、彼らはムスリムとは際立った出で立ちをしなければなりません。彼らはイスラームに興味がある場合モスクに入ることが出来ますが、マッカのハラーム・モスクだけは入ることが許されません。

    ● ズィンミーとの付き合い方:

     ズィンミーに表敬の意味で起立することや彼らの祝祭などを共に祝うこと、キリスト教会やシナゴーグ、その他の非イスラーム宗教施設の新たな建設、酒類や豚肉などを公けに取り扱ったりすること、宗教施設の鐘などを鳴らすこと、彼らの啓典などが高らかに読誦されること、ムスリムの建築物を越えるほどの高い建築物を建てることなどは禁じられます。

     一方で彼らの改宗を望みつつ、言葉や行為でもって彼らに親切にし、善行を施すことが奨励されます。

     至高のアッラーはこう仰られました:-アッラーは宗教ゆえにあなた方に戦いを仕掛けたり、あなた方を家から追い出したりしなかったような者たちに対して、あなた方が善行を施したり公正に接したりすることを禁じられてはいない。実にアッラーは公正な者を愛でられるのだ。,(クルアーン60:8)

    ● 表敬や手助けなどのために、目の前に現れたムスリムに対して起立することは許されます。また同様に、立ち上がってその者の所へ歩いて赴くことも問題ありません。しかしその者の護衛か、あるいはシルクの徒の面目を潰すつもりでない限り、座っている者の前に起立することは許されません。例えばクライシュ族が停戦協議のためにフダイビーヤの預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)のもとへ使節を派遣した際、アル=ムギーラ・ブン・シュゥバ(彼にアッラーのご満悦あれ)は座っているアッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)の前に護衛のために立っていました。

    ● ズィンミーの契約はいつ無効化されるか:

     1-ズィンミーの契約は彼らがジズヤ税の支払いを拒否するか、またはイスラームの法規定遵守を拒むか、あるいはムスリムに対して殺人、姦淫、強盗行為、スパイ行為などの法的侵害を行うか、あるいはアッラーとその使徒、またはイスラームの啓典や法に汚名を着せたりした場合に無効化され、同時にその生命と財産の安全保障も消失します。

     2-ズィンミーの契約が無効化されれば、その者はムスリムと交戦状態にある者と見なされます。それでイスラーム法治国家の長はその者を死刑にするか、奴隷化するか、または無償解放するか、あるいは有償解放するか、最も福利に適う選択をします。

    ● 安全保障:

     非ムスリムの商売やイスラームの学習などの目的のため、全ムスリムは彼らに対し一定期間、イスラーム国家内における安全保障を付与することが出来ます。但しそうすることによって害悪が発生する恐れがある場合は、その限りではありません。また安全保障を行うムスリムは成人で正常な理性を備えており、また自らの意思でそれを行う必要があります。またイスラーム法治国家の長は、あらゆる非ムスリムに対し安全保障を与えることが出来ます。

     安全保障を与えられた非ムスリムは殺害や拘束、害悪などによって権利を侵害されることを禁じられます。

    至高のアッラーはこう仰られました:-そしてシルクの徒が保護を訴えてきたら、その者がアッラーの御言葉(クルアーン)を耳に入れるべく保護してやるのだ。それからまた彼を安全な場所まで送り届けてやれ。というのも彼らは無知な民であるからである。,(クルアーン9:6)

    ● アラビア半島における非ムスリムの居住について:

     ユダヤ教徒やキリスト教徒を始め、いかなる非ムスリムもアラビア半島に留まることは許されません。但し滞在が仕事などの必要で、彼らの害悪が見込まれない場合においては合法化されます。

    ● 非ムスリムがモスクに入ることに関して:

     1-非ムスリムがマッカのハラム領域に入ることは許されません。偉大かつ荘厳なるアッラーはこう仰られました:-信仰する者たちよ、シルクの徒は不浄である。それゆえ今年以降は彼らをハラーム・モスクに近付けてはならない。もしあなた方が困窮を恐れるのであっても[7]、アッラーがその恩恵でもってあなた方を豊かにしてくれよう。実にアッラーは全てをご存知になり、この上ない英知を備えられたお方である。,(クルアーン9:28)

     2-またそれ以外の領域にあるモスクに関しては、何らかの必要や福利のためにムスリムがそれを許可しない限り、非ムスリムがモスクに足を踏み入れることは禁じられます。

    ● 安全協定を結んでいる非ムスリムを不当にあやめることの罪:

     イブン・ウマル(彼らにアッラーのご満悦あれ)によれば、預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「協定を結んでいる者を殺した者は、天国の香りを嗅ぐことがない。それは40年も向こうの行程から漂ってくるものであるにも関わらず、である。」(アル=ブハーリーの伝承[8]

    ● イスラーム国家内における教会などの建設に関して:

     モスクはイーマーンの家ですが、現代のキリスト教会やシナゴーグなどは不信仰とシルク[9]の家と成り果てています。そして全ての大地は、偉大かつ荘厳なるアッラーにのみ属しているのです。

     アッラーはモスクの建設と、そこにおいてかれのために崇拝行為が行われることを命じられました。そしてそこにおいてかれ以外の何ものかが拝されることを、禁じられたのです。

    [1] 訳者注:詳しくは「タウヒードとイーマーン」の章のシルクの項を参照のこと。

    [2] 訳者注:これはマーリキー学派を除くスンナ派4大法学派と、主要なシーア法学派の見解です。マーリキー学派の主要な見解とアル=アウザーイー、アッ=サウリー、シャーム地方の法学者らの見解によれば、ジズヤ税は啓典の民であるかそうでないか、あるいはアラブであるか非アラブであるかに関わらず徴収されます(ワハバ・アル=ズハイリー著「アル=フィクフ・アル=イスラーミー・ワ・アッディラトフ」8:5880-5881)。

    [3] 訳者注:これはイスラーム法治国家の長が、安全協定も停戦条約も結んでいない国家の民に対してとる立場です。イスラーム法治国家の長が不在である場合、あるいは存在していてもそのような安全保障協定を結んでいる国家に対して正当な理由もなくこのような行為に出ることは非合法です。「④ズィンミーの契約」及び「⑤停戦条約」の項を参照のこと。

    [4] 訳者注:同上。

    [5] サヒーフ・アル=ブハーリー(4497)、サヒーフ・ムスリム(92)。文章はアル=ブハーリーのもの。

    [6] 訳者注:詳しくは「報復刑と固定刑」の章を参照のこと。

    [7] 訳者注:ハッジとウムラはイスラーム以前にも形式的には同様の形で存在していましたが、マッカのシルクの徒は特にハッジの時期においてマッカの物質的繁栄と興隆に大きく貢献していました。それゆえアッラーからこの命令が下った時に、ある者たちはその繁栄が消失してしまうことを恐れましたが、そのような誤った考えに対してこの句が下ったとされます(アッ=シャウカーニー著クルアーン解釈「ファトゥフ・アル=カディール」より)。

    [8] サヒーフ・アル=ブハーリー(3166)。

    [9] 訳者注:詳しくは「タウヒードとイーマーン」の章を参照のこと。