×
夫婦間の愛情が消滅して憎悪や嫌悪間に取って代わったり、または妻が夫婦関係において問題を見出したり、あるいは夫婦のいずれか、あるいは両者の落ち度が明らかになったりしたような場合に、偉大かつ荘厳なるアッラーはその解決策‐夫であれば離婚、妻であれば償還離婚‐をご用意なさいました。償還離婚とは、妻がその夫に彼らから受領したマハル(贈与財)やその一部、あるいはそれよりも多額の物を支払って、彼と離婚することです。

    償還離婚

    ] 日本語 [

    الخلع

    [اللغة اليابانية ]

    ムハンマド・ブン・イブラーヒーム・アッ=トゥワイジリー

    محمد بن إبراهيم التويجري

    翻訳者: サイード佐藤

    ترجمة: سعيد ساتو

    校閲者: ファーティマ佐藤

    مراجعة: فاطمة ساتو

    海外ダアワ啓発援助オフィス組織(リヤド市ラブワ地区)

    المكتب التعاوني للدعوة وتوعية الجاليات بالربوة بمدينة الرياض

    1429 – 2008

    4-償還離婚

    ● 償還離婚とは:夫がその妻を、何らかの代償を受領した上で離婚することです。

    ● 償還離婚が定められたことに潜む英知:

     夫婦間の愛情が消滅して憎悪や嫌悪間に取って代わったり、または妻が夫婦関係において問題を見出したり、あるいは夫婦のいずれか、あるいは両者の落ち度が明らかになったりしたような場合に、偉大かつ荘厳なるアッラーはその解決策‐夫であれば離婚、妻であれば償還離婚‐をご用意なさいました。償還離婚とは、妻がその夫に彼らから受領したマハル(贈与財)やその一部、あるいはそれよりも多額の物を支払って、彼と離婚することです。

    1-至高のアッラーはこう仰られました:-離婚宣告は2回まで(何事もなく復縁の取り返しがつく)。そして(離婚宣告をした後は、彼女を)当然の善行として引き留めるか、あるいは懇ろに(待婚期間が終わるまで待ち、彼女を)解き放ってやるのだ。そして夫婦がアッラーの掟(夫婦の互いに対する義務の遂行)を(もはや)遵守出来ないことを知った後でない限り、あなた方(夫)は彼女たちから彼女たちに与えた財産の内から何も取ってはいけない。しかしもしあなた方(互いの後見人)が彼ら夫婦がアッラーの掟を遵守出来ないことを知ったのであれば、(夫が)妻からの代償(を受領すること)に問題はない。,(クルアーン2:229)

    2-イブン・アッバース(彼らにアッラーのご満悦あれ)によれば、サービト・ブン・カイスの妻が預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)のもとにやって来て、こう言いました:「“アッラーの使徒よ、私はサービト・ブン・カイスの人格や宗教について非難するわけではありません。でも私はイスラームにおける(自らの)不信仰を厭う[1]のです。”すると(預言者は)言いました:“彼に(あなたがマハルとして受け取った)農園を返還するか?”彼女は言いました:“ええ。”そしてアッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は(サービトに)言いました:“農園を受け取り、彼女を離婚してやるのだ。”」(アル=ブハーリーの伝承[2]

    ● 償還離婚を義務付ける物事:

     1-夫の付き合い方や性格の悪さ、容姿の醜さなどに嫌悪感を抱いていたり、あるいはそのような理由ゆえに自らが夫に対する義務を果たすことを怠ることで罪を犯すことを恐れたりするような場合、妻には償還離婚の申請が許されます。そして夫は妻からのその請願に応じることが推奨されます。

     2-サラー(礼拝)の放棄や貞操の無さなどの宗教的欠陥ゆえに妻が夫を厭う場合、それが矯正不可能な域にまで達していたら、彼女は彼との離婚を急ぐべきです。

     一方夫が何らかの非合法な物事を行ってはいても、それを妻にまで強制しないような場合、償還離婚をする必要にまでは至りません。そして特に問題でもないことを理由に夫に離婚を請願することは禁じられており、そのようなことをする女性は天国の芳香すら嗅ぐことがないと言われています。

    ● 妻への嫌がらせ:

     夫は妻からマハルを取り戻すために、彼女に償還離婚を促す意図をもって嫌がらせをすることを禁じられています。但し妻が不貞を働いた場合はその限りではありません。

     至高のアッラーはこう仰られました:-信仰者たちよ、妻を相続すること[3]はあなた方にとって非合法である。そしてあなた方が(マハルとして)妻に贈った物の一部を取り戻そうとして、彼女らに嫌がらせをしてはならない。但し彼女らが明らかな不貞を働いた場合は別である。そして妻と懇ろに付き合うのだ。例えあなた方が彼女たちを嫌っても、アッラーはあなた方の嫌うものに沢山の良きものを授けて下さるかもしれないのだから。,(クルアーン4:19)

    ● 償還離婚の法的位置づけ:

     償還離婚は「償還離婚」「契約破棄」「身代金」といった表現で発生する契約破棄ですが、もし「離婚」とかそれを暗に意図する表現で起こったなら、それは離婚と見なされます。償還離婚は復縁不可能で、もし再婚したい場合は‐それが3回めの離婚ではない限りにおいて‐新たな婚姻契約とマハルをもって結婚しなければなりません。

    ● 償還離婚の時期:

     償還離婚は妻が月経中であろうと清浄な状態であろうと、いつでも可能です。そして償還離婚をした女性のイッダは月経1回のみです。

     償還離婚をした夫婦が再婚を望む場合には、イッダを終了した後に新たな婚姻契約とマハルをもって結婚しなければなりません。

    ● 償還離婚で支払う財産:

     マハルとして有効な財産であれば、いかなるものも償還離婚の代償とすることが可能です。それでもし妻が「私を100万円で離婚して下さい」と言って夫がそれを受け入れれば、彼女は完全離婚された状態になり、夫に対して100万円の支払いが義務付けられます。尚夫は、自分が彼女にマハルとして贈った物より多額の物を受領すべきではありません。

    [1] 訳者注:彼女が「不信仰」という言葉でもって意図したのは、彼女が彼の容姿の醜さを厭うゆえに、彼に対する夫の権利をおろそかにしてしまうことであったと解釈されています。

    [2] サヒーフ・アル=ブハーリー(5273)。

    [3] 訳者注:イスラーム以前のアラブの無明時代の習慣には、誰かの妻がその夫を亡くした場合、彼に最も近縁の男性が彼女を相続するという悪習がありました。