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致命的ではない傷害が故意に行われた場合、報復刑が科されます。

    報復刑

    5致命的ではない傷害の血債

    ] 日本語 [

    القصاص – الدية فيما دون النفس

    [اللغة اليابانية ]

    ムハンマド・ブン・イブラーヒーム・アッ=トゥワイジリー

    محمد بن إبراهيم التويجري

    翻訳者: サイード佐藤

    ترجمة: سعيد ساتو

    校閲者: ファーティマ佐藤

    مراجعة: فاطمة ساتو

    海外ダアワ啓発援助オフィス組織(リヤド市ラブワ地区)

    المكتب التعاوني للدعوة وتوعية الجاليات بالربوة بمدينة الرياض

    1429 – 2008

    5-致命的ではない傷害の血債

    ● 致命的ではない傷害が故意に行われた場合、報復刑が科されます。

     そして故意ではない場合は、報復刑ではなく血債が科されます。

    ● 身体器官の損失や創傷など、致命的ではない傷害に関する血債には3種類あります:

     1-身体器官とその機能に関する血債:

    ① 人体に1つしか備わってはいないもの:鼻や舌、性器、あごひげなどのことで、これらには生命に対するそれと同様の血債が科されます。また聴覚や視覚、言語機能や理性、肌や脊椎の喪失などもここに含まれます。

    ② 人体に2つ備わっているもの:眼球や耳、唇、睾丸、手、足、臀部、陰唇、乳房などのことで、片方につき血債の半額分、両方で血債全額が科されます。またこれらの片方の機能が喪失した場合も同様に血債の半額分が、そして両方の機能共に失われた場合には血債が全額科されます。但し片目しかない者が視力を奪われた場合、科される血債は全額です。

    ③ 人体に4つ備わっているもの:左右の眼球に備わっている、合計4つの上下のまぶたのようなものは、それぞれ血債全額の4分の1が科されます。ゆえに左右どちらのまぶたを上下とも損傷された場合には、血債全額が科されます。

    ④ 人体に10個備わっているもの:手足の指のようなもので、それぞれの指には血債全額の10分の1が科されます。ゆえに両手の指全てを奪われた場合、血債は全額科されます。また各指の関節1つ分の血債は、指1本分の血債の更に3分の1の額で、親指に限っては関節が2つしかないために2分の1の額です。尚両手の指全ての機能が失われた場合も、血債全額が科されます。

    ⑤ 歯:人間の歯は合計32本あり、内前歯が上下合わせて4本、4本1組の歯も同様に4本、犬歯も上下合わせて4本、臼歯が左右に各10本ずつの計20本です。歯は1本につき、ラクダ5頭が科されます。

    ● 尚、以下の毛髪類が全て失われれば、それぞれに血債全額が科されます:

    ① 頭髪 ② あごひげ ③ 眉毛 ④ 睫毛

    ゆえに眉毛片方であれば血債の半額が、そして4つある各睫毛にはそれぞれ血債の4分の1が科されるのです。

    ● また麻痺していた手や視覚のない眼球、腐敗していた歯などを奪われた場合、それぞれ本来の血債額の3分の1が科されます。

    2-頭部やそれ以外の部分の創傷に関する血債:

    ● 頭部の損傷には10種類ありますが、内5種類は評価型、そしてもう5種類はイスラーム法によって定められている法定型です。

    評価型の5種類は以下の通りです:

    ① 無出血擦過傷:表皮が擦り傷を負い、裂ける類のものです。出血はありません。

    ② 小出血傷:少量の出血が見られるものです。

    ③ 軽度皮下切創:真皮下部にまで切り傷や裂傷が達しているもの。

    ④ 重度皮下切創:皮下組織の奥にまで創傷が達しているもの。

    ⑤ 骨膜創:傷が骨の表面にある骨膜寸前にまで達しているもの。

    ● これらの5種類の創傷の血債は、イスラーム法によって定められていない評価型です。

     評価型とは:血債を、被害者の損傷を評価検討して定める類のものです。例えば奴隷の場合、被害後の値段と快復後の値段を比較した差額がその血債となります。その他の場合は裁判官[1]が裁量によって判断しますが、その際には傷害の程度と被害度、痛みの度合いなどを考慮に入れます。

    法定型の5種類は以下の通りです:

    ⑥ 頭骨露出創:頭骨部分が見える位にまで創傷が達する類のものです。血債はラクダ5頭分です。

    ⑦ 頭骨損傷創:頭骨部分が見える位にまで創傷が達し、頭骨の骨折や損傷を及ぼした類のものです。血債はラクダ10頭分です。

    ⑧ 頭骨剥離創:頭骨部分が見える位にまで創傷が達し、頭骨の骨折や損傷及び頭骨の剥離を及ぼした類のものです。血債はラクダ15頭分です。

    ⑨ 脳表面創:脳の表面にまで創傷が達しているもの。血債全額の3分の1が科されます。

    ⑩ 脳創:傷が脳の表面下にまで達しているもの。同じく血債全額の3分の1が科されます。

    ● 頭部以外の身体における創傷は、身体内部にまで達するものであれば血債全額の3分の1が科されます。もしそこまでに至らないものであれば、評価型と見なされます。

    ● 身体内部にまで達する創傷とは:腹部や後背部、胸部の内部や、咽喉部に達しているもののことを指します。血債は全額の3分の1です。

     3-骨部損傷に関する血債:

     以下の通り、骨の損傷には血債が科されます:

    ① 肋骨は損傷後に正常な状態に快復したら、その血債はラクダ1頭分です。

    ② 鎖骨は損傷後に正常な状態に快復したら、その血債はラクダ1頭分です。尚2本とも損傷した場合は、2頭分です。

    ③ 上腕骨や前腕骨、大腿骨や下腿骨などはそれぞれ損傷後に正常な状態に戻ったら、ラクダ2頭分の血債が科されます。

    ④ 上記の骨が損傷したまま元の状態に戻らなかった場合、血債は評価型となります。尚脊椎に関しては、その損傷後に快復しなかった場合血債全額が科されます。

    ⑤ 上記以外の骨に関しては決められた法定額はなく、全て評価型扱いとなります。

    ● 被害者は加害者に対し、血債の代わりに治療費を請求する権利を有しません。その額が治療費に比して多かろうと少なかろうとイスラーム法で定められた通りの血債を受領し、アッラーとその使徒の裁断に満足するように努めるのです。

    ● 上記の法規定に関して、以下のような伝承があります:

     アブー・バクル・ブン・ムハンマド・ブン・アムル・ブン・ハズムが彼の父から、そして彼の父がその父から語るところによれば、預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)はイエメンの民に遺産相続法とスンナ[2]、血債に関する法規定を記して送りました:そしてその中には、こうありました:「・・・そして生命に対する血債は100頭のラクダ、鼻は完全に切断されたら(同様にラクダ100頭の)血債全額、舌にも血債全額、上下の唇両方で血債全額、睾丸両方で血債全額、男性器にも血債全額、脊椎にも血債全額、眼球2つで血債全額、足1本で血債全額の半分、脳表面創には血債全額の3分の1、身体内部にまで達する創傷には血債全額の3分の1、頭骨剥離創にはラクダ15頭である。

    また手足の指は1本につきラクダ10頭、歯には(1本につき)ラクダ5頭、頭骨露出創にもラクダ5頭である。そして男性は女性(を故意に殺害したら、報復刑)によって殺され、金を所有する者は(血債としてラクダの代わりに)1000ディーナールを支払うことも出来る。」(アン=ナサーイーとアッ=ダーリミーの伝承[3]

    ● 女性の血債額に関して:

    女性の血債額は過失の殺人の場合、男性の半額です。これは身体器官の損失や損傷の血債に関しても同様で、男性の半分量を受領します。

    シュライフ(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「ウマルから遣わされて来たウルワ・アル=バーリキーが私のもとにやって来て、こう言いました:“男女の傷害(における血債)は、歯と頭骨露出創において同等です。しかしそれ以上のものに関しては、女性の血債は男性のそれの半分の量です。”」(イブン・アビー・シャイバの伝承[4]

    [1] 訳者注:イスラーム法で裁く裁判官のことです。そのような機関が存在しない非ムスリム国や地域に居住するムスリムは、そこにおけるイスラーム的権威である学者やイマームなどに依拠することになります。

    [2] 訳者注:預言者ムハンマド(彼にアッラーの祝福と平安あれ)の言動や、彼の認証したこと、及び彼の性質的・形質的諸特徴のこと。ムスリムは可能な限り、彼のスンナを踏襲するべきであるとされています。

    [3] 真正な伝承。スナン・アン=ナサーイー(4853)、スナン・アッ=ダーリミー(2277)。イルワーウ・アル=ガリール(2212)とナサブ・アル=ラアヤ(2/342)も参照のこと。

    [4] イブン・アビー・シャイバ(27487)。イルワーウ・アル=ガリール(2250)参照のこと。