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姦淫による被害は、数ある被害の内でも最たるものです。姦淫は子孫の保護や貞操の保持、非合法な物事の防止などといった世界の秩序における福利を損ねます。また姦淫は全ての悪い問題を結集し、しもべにありとあらゆる罪悪への扉を開け放ち、心と精神に病を及ぼし、貧困と悲惨さを引き起こします。また人々はその者を軽蔑して離れ去り、その顔には退廃の印が現れ、彼もまた人々の中で安らぎを感じることが出来なくなるのです。

    固定刑

    2姦淫罪に対する固定刑

    ] 日本語 [

    حد الزنا

    [اللغة اليابانية ]

    ムハンマド・ブン・イブラーヒーム・アッ=トゥワイジリー

    محمد بن إبراهيم التويجري

    翻訳者: サイード佐藤

    ترجمة: سعيد ساتو

    校閲者: ファーティマ佐藤

    مراجعة: فاطمة ساتو

    海外ダアワ啓発援助オフィス組織(リヤド市ラブワ地区)

    المكتب التعاوني للدعوة وتوعية الجاليات بالربوة بمدينة الرياض

    1429 – 2008

    1-姦淫罪に対する固定刑

    ● 姦淫とは:自分にとって合法的ではない異性と性交することです。

    ● 姦淫の法的位置づけ:

     姦淫は非合法で、最も大きな犯罪の1つです。またシルク[1]や不当な殺人に次ぐ大罪[2]でもあり、また同じ姦淫でもその醜悪さとひどさにおいて様々な程度の違いがあります。例えば既婚者との姦淫や近親者との姦淫、隣人との姦淫はその中でも最悪の類のものです。

    ● 姦淫の弊害:

     姦淫による被害は、数ある被害の内でも最たるものです。姦淫は子孫の保護や貞操の保持、非合法な物事の防止などといった世界の秩序における福利を損ねます。また姦淫は全ての悪い問題を結集し、しもべにありとあらゆる罪悪への扉を開け放ち、心と精神に病を及ぼし、貧困と悲惨さを引き起こします。また人々はその者を軽蔑して離れ去り、その顔には退廃の印が現れ、彼もまた人々の中で安らぎを感じることが出来なくなるのです。

     また姦淫者に対する懲罰は悲痛です。もしその者が既婚者であれば、現世におけるその懲罰は投石による死刑という非常に厳しい固定刑で、もし未婚者であれば鞭打ち刑と一定期間の国外追放が科されます。そしてもしその者が悔悟しなければ、来世においても厳しい懲罰が待っています。つまり男女の姦淫者は、全裸のまま地獄の業火の炉の中に放り込まれるのです。

     至高のアッラーはこう仰られました:-そしてアッラーと共に他のものを(崇拝して)祈ったりせず、また正当な理由なしにはアッラーが禁じられた生命をあやめたりせず、そして姦淫したりすることもない者(は、慈悲深きお方の正しいしもべである)。そのようなことを行う者は、その罪(による報い)を受けるであろう。審判の日、彼には懲罰が倍増され、辱められたままそこに永遠に留まる。但し悔悟して信仰し、正しい行いをする者に関しては、アッラーがその悪行を善行でもって取り換えて下さるであろう。アッラーはお赦し深く、慈悲深いお方。,(クルアーン25:68-70)

    ● 既婚者(ムフサン)とは:正確な定義によると、正しい婚姻契約によって結婚した配偶者と性器によって交わったことがある者のことです。また自由民でありかつ責任能力を備えていることも条件となります。一方「未婚者」は、これ以外の者のことを指します。

    ● 姦淫に陥らないための予防法:   

    イスラームは合法的な婚姻を、性的欲望の処理や子孫の保護における最も安全な方法としました。そしてこの合法的な手段以外のものをもって性交渉することを禁じ、それを予防するべく女性には配偶者やマハラム[3]以外の者の前ではベールをまとうことを命じ、その装飾品をこれ見よがしに見せびらかしたり、化粧などで自らを美しく見せたり、マハラム以外の男性と交わったり2人きりになったりすることや、あるいはスキンシップを持つことなどを禁じました。また男女両方に対して視線を慎むことを命じ、女性がマハラムなしで旅行することを禁じました[4]。これらは全て、男女が姦淫の罪に陥らないための予防策なのです。

    ● 姦淫は性交渉によるもののみではない:

     アブー・フライラ(彼にアッラーのご満悦あれ)によれば、預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「アーダムの子(人類)には、姦淫の割り当てが定められている。それは確かに起きるのであり、避け得れないものなのだ。例えば両目の姦淫は(意識した)視線であり、両耳の姦淫は(意識して)聴くことである。また舌の姦淫は言葉であり、手の姦淫は暴力、また足の姦淫は足取りである。そして心は欲望し、望むのだが、性器がそれに了承するか、しないかだけなのだ。」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[5]

    ● 姦淫に対する懲罰:

     1-既婚者の姦淫者に対する懲罰:性別や、ムスリム、非ムスリム[6]の相違を問わず、投石による死刑です。

     2-未婚者の姦淫者に対する懲罰:性別を問わず、100回の鞭打ち刑の後に1年間の国外追放です。また奴隷[7]に関しては男女の別を問わず50回の鞭打ち刑で、国外追放は科せられません。

    ● 配偶者のない自由民女性や、主人のない奴隷女性が妊娠した場合、本人が取り違え[8]やレイプなどを主張しない限り、固定刑を科されます。尚女性を強制して姦淫した者に関しては、その者のみに固定刑が科され、女性には何の罰も科されません。更にそのようなことをした者は、女性に対してマハル(贈与財)を支払う義務も科されます。

    ● 姦淫に対する固定刑の条件:

     姦淫に対する固定刑が科されるには3つの条件が満たされなくてはなりません:

     1-実物の男性器の亀頭が、存命中の女性の性器内に挿入されること。

     2-そこに何の取り違えや誤解なども存在していなかったこと:自分の妻と間違えて他の女性と性交渉してしまった、というような場合には固定刑は実施されません。

     3-姦淫が確証されること:それには2通りあります:

    ① 自認:正常な理性を備えている者であれば1回、理性に多少の薄弱性があるとの

    疑いがある者であれば4回の自認が必要です。いずれの場合も性交渉の事実を直接

    的表現で告白し、かつ固定刑が執行されるその時まで自認し続けた状態でなければ

    なりません。

    ② 証言:宗教を遵守し常識を備えたムスリム男性4人が、その者の姦淫の事実を証

    言することです。

    ● 姦淫の固定刑が科される者:

     1-ムスリムであるかどうかを問わず、姦淫した者。殺人に対する報復刑や窃盗に対する切断刑のように、固定刑は姦淫罪そのものに原因付けられることから、非ムスリムであっても科されることになります。[9]

     2-既婚者男性が、未婚者女性と姦通した場合:前者には投石の刑が、後者には鞭打ち刑と国外追放の刑が科されます。

     3-自由民男性が奴隷女性と、あるいは奴隷男性が自由民女性と姦通した場合:それぞれの規定に応じて、固定刑が科されます。

     4-姦通した本人に以下の条件が当てはまること:

    ① 責任能力があること:つまり未成年や精神的に異常のある者ではない。

    ② 自らの選択でその行為を行ったこと。

    ③ 姦淫の非合法性を知っていたこと。

     これらの条件を満たし、かつ自認にせよ証言にせよ裁判官[10]のもとで犯罪が確証され、かつその者に何の取り違えもなかったような場合、固定刑が執行されます。

    ● 姦淫罪に対する投石刑では男女の別なく、穴を掘って罪人をそこに入れたりはしません。但し女性に関しては、アウラ[11]が露わになったりしないように衣服をきつく着用させておきます。

    ● 姦淫によって妊娠した女性や、姦淫を自認した女性に関しては、最初にイスラーム国の統治者が投石し、それから人々がそれに続きます[12]。一方4人の証言によって姦淫が確証された者に関しては、まずその者たちが投石し、それから統治者が、そして人々がそれに続きます。

    ● 固定刑の執行を阻む類の無知:

     ある物事の非合法性は知っていたものの、その刑罰の内容については無知であった、というような場合は刑罰を免除される口実にはなりません。刑罰を免除される口実となるのは、その行為自体の非合法性に関して無知だった場合です。

     ゆえに姦淫を犯した者が姦淫の非合法性を知ってはいても、その罰が投石刑か鞭打ち刑かについては無知であったような場合、その無知は刑の執行を免れる口実にはならず、固定刑が執行されることになります。

    ● 姦淫後の夫婦関係:

     妻帯者である男性が姦淫を犯しても、その妻との性交渉は禁じられません。その逆もまた可で、夫のいる女性が姦淫を犯しても、彼との性交渉が禁じられることはありません。但しこのような者たちは大きな罪を犯したのであり、アッラーに悔悟し、その罪のお赦しを乞わなくてはなりません。[13]

     1-至高のアッラーは仰られました:-そして姦淫には近づくな。それは醜悪なものであり、悪い道である。,(クルアーン17:32)

     2-アブドッラー・ブン・マスウード(彼にアッラーのご満悦あれ)によれば、彼はアッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)に訊きました:「“アッラーの御許で最大の罪は何ですか?"(預言者は)言いました:“あなたを創造したかれに、何ものかを並べて崇拝することだ。"(イブン・マスウードは)言いました:“それは確かにひどいことです。それではその次に大きい罪は?"(預言者は)言いました:“それから、あなたの食いぶちを減らすことを恐れて、あなたの子を殺すことである。"(イブン・マスウードは)言いました:“それではその次は?"(預言者は)言いました:“あなたの隣人の妻と姦通することである。"」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[14]

    ● マハラム[15]と姦通した者:

     その非合法性を知りつつ姉妹や娘、父親の妻[16]などのマハラムと姦通した者には、死刑が科されます。

     アル=バラーゥ(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「私は、旗を携えた私の叔父に出遭いました。私は言いました:“どこへ行くのですか?"(叔父は)言いました:“アッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)が私を、自分の父親の妻を娶った男のもとに遣わしたのだ。そしてそいつの首を討ち、財産を没収するよう命じたのだ。"」(アッ=ティルミズィーとアン=ナサーイーの伝承[17]

    ● 男色に関して:

     男色とは:男性同士の性交渉であり、肛門を用いて卑猥な行為をすることです。

    ● 男色を行っていた民の行く末:

     男色は道徳と人間に先天的に与えられた天性に腐敗をもたらす、最大の罪の内の1つです。またその懲罰はその禁忌性の高さゆえ、単なる姦淫の刑罰よりも厳しいものです。男色は心身に危険な病を及ぼす性的倒錯であり、過去にアッラーはそのようなことを働いていた民を地に沈め、また焼け石の雨を降らせて滅亡させられました。そして彼らには、来世において更なる懲罰が待ち受けているのです。

     1-至高のアッラーはこう仰られました:-そしてルート(預言者ロトのこと)が、その民にこう言った時のこと(を思い出せ):“あなた方は一体、あなた方以前の世界中の誰もやらなかったような醜行を行うというのか?あなた方は女性を差し置いて、欲望をもって男性に近寄ろうとしている。いや、あなた方は度を越した民である。",(クルアーン6:80-81)

     2-至高のアッラーはこう仰られました:-そしてわれら(アッラーのこと)の定めが訪れた時、われらは(ルートの民の)村を逆様に転覆させ、その上に焼け石からなる硬い石の雨を間断なく降らせた。(それらは)主の御許からのもので、その各々には印が付いていた。それは決して(お前たち)不正者たちから遠い日の出来事ではないのだぞ。,(クルアーン11:82-83)

    ● 男色の法的位置づけ:

     男色は非合法であり、その懲罰はムフサン[18]であるか否かに関わらず、断首刑であろうと投石刑であろうとイスラーム法治国家の統治者が適切と見る方法によって死刑とします。また男色者がその行為においてどのような役割を担っていたかなどは関係なく、いずれの者も刑に処されます。

     預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「ルートの民の行い(男色)をする者を見たら、それをする者もされる者もいずれも殺すのだ。」(アブー・ダーウードとアッ=ティルミズィーの伝承[19]

    ● 尚女性同士の同性愛行為も禁じられていますが、その懲罰は裁判官の裁量刑によります。

    ● 自慰行為の法的位置づけ:

     自慰行為はいかなる形であれ、非合法です。サウム(斎戒、いわゆる断食)をすることは、そのような悪癖を予防してくれるでしょう。

     1-至高のアッラーは人間に許されるものを明らかにしつつ、こう仰られました:-そしてその貞操を守る者。但し自分の配偶者とその右手が所有するもの(奴隷女性のこと)は別であり、(その者たちと交わることに)お咎めはない。しかしその敷居を越えてしまえば、法を越える者となってしまうだろう。,(クルアーン23:5-7)

     2-アブドッラー・ブン・マスウード(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「アッラーの使徒(彼にアッラーからの平安と祝福あれ)は、私たちにこう言いました:“若者たちよ。あなた方の内で婚資を備えている者は、結婚するのだ。結婚は最も(欲望の)視線を低め、最も貞操を守ってくれるものである。そしてそうすることが出来ない者は、サウム(斎戒)せよ。実にそれは彼にとっての去勢[20]であるから。"」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[21]

    ● 獣姦した者は、イスラーム法治国家の統治者が適切と見るものでもって裁量刑に処します。尚獣姦をされた動物の方は、屠殺されます。

    [1] 訳者注:詳しくは「1-タウヒードとイーマーン」の章のシルクの項を参照のこと。

    [2] 訳者注:「大罪(カビーラ)」とは、それに対し現世において刑罰が適用されたり、あるいはそれを犯すことで来世において地獄を警告されていたり、またアッラーのご慈悲からの放逐やかれのお怒りを招くこととされているものです。例としてはシルクや殺人、ズィナー(姦淫)や魔法、リバー(不法商取引)、親不孝、嘘の誓いなどがあります。

    [3] 訳者注:夫婦関係にある者や乳親族の関係にある者、またいかなる状態においても婚姻が許されない近縁関係にある父母や兄弟姉妹や息子や娘などのことです。

    [4] 訳者注:シャーフィイー学派、及びマーリク学派の一部では、道中の安全が確保されていればマハラムなしでも女性の旅行は可能という説があります。

    [5] サヒーフ・アル=ブハーリー(6243)、サヒーフ・ムスリム(2657)。文章はムスリムのもの。

    [6] 訳者注:イスラーム法治国家内の話です。

    [7] 訳者注:イスラームは奴隷の存在に対して積極的なわけではなく、むしろ奴隷になった者たちの解放を折に触れて奨励しています。詳しくは「4-ムアーマラート」の章の26「奴隷の解放」の項を参照のこと。

    [8] 訳者注:つまり誰か男性が、彼女を自分の妻と間違って性交したりしてしまったということなど。

    [9] 訳者注:イスラーム法治国家内の話です。

    [10] 訳者注:イスラーム法で裁く裁判官のことです。

    [11] 訳者注:「アウラ」とは人前で晒してはいけない体の部位で、男性のアウラはへそから両膝までで、男性に対する女性のアウラは顔と両手を除く全身ですが、その他にも諸見解があります 。

    [12] 訳者注:無論妊娠中の女性は出産と授乳の義務を終了するまで、刑の執行が猶予されます。

    [13] 訳者注:これは姦淫者に固定刑が実施されなかった場合のことのようです。無論のことイスラーム法治国家以外では固定刑は実施されることもなく、またイスラーム法治国家内であっても継続的自認や4人の詳細な証言がなければ姦淫罪の固定刑が行われることはありません。

    [14] サヒーフ・アル=ブハーリー(6811)、サヒーフ・ムスリム(86)。文章はムスリムのもの。

    [15] 訳者注:夫婦関係にある者や乳親族の関係にある者、またいかなる状態においても婚姻が許されない近縁関係にある父母や兄弟姉妹や息子や娘などのことです。

    [16] 訳者注:「母親」という表現でないのは、父親には本人の母親には当たらない複数の妻がいるかもしれないからです。

    [17] 真正な伝承。スナン・アッ=ティルミズィー(1362)、スナン・アン=ナサーイー(3332)。文章はアン=ナサーイーのもの。

    [18] 訳者注:「ムフサン」とは男女の別なく、成人ムスリムで精神的に健常な自由民で、婚姻の経験(つまり合法的な性交渉の経験)があり、慎ましく放縦ではない者のことです。

    [19] 真正な伝承。スナン・アブー・ダーウード(4462)、スナン・アッ=ティルミズィー(1456)。

    [20] 訳者注:無論これは去勢そのものではなく、性的欲望の減少効果を示しています。

    [21] サヒーフ・アル=ブハーリー(5066)、サヒーフ・ムスリム(1400)。文章はムスリムのもの。