傷害
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報復刑
1傷害
] 日本語 [
القصاص - الجنايات
[اللغة اليابانية ]
ムハンマド・ブン・イブラーヒーム・アッ=トゥワイジリー
محمد بن إبراهيم التويجري
翻訳者: サイード佐藤
ترجمة: سعيد ساتو
校閲者: ファーティマ佐藤
مراجعة: فاطمة ساتو
海外ダアワ啓発援助オフィス組織(リヤド市ラブワ地区)
المكتب التعاوني للدعوة وتوعية الجاليات بالربوة بمدينة الرياض
1429 – 2008
報復刑と固定刑
①報復刑
1-傷害
● 傷害とは:その結果として報復刑や財産による賠償、贖罪が義務付けられるような身体的権利に対する侵害のことです。
● 報復刑が定められたことに潜む英知:
アッラーは人類の祖であるアーダムを自らの御手でもって創られ、そこにかれの御許からの魂を吹き込まれました。アッラーは人間を他の創造物に優る高貴な存在とし、ある偉大な物事‐いかなるものをも並べることなく、その主のみを崇拝すること‐の為に地上におけるかれの代理人とされたのです。そして全人類をアーダムの一系とされ、人々がアッラーのみを尊奉するべく彼らのもとに使徒を遣わされ、啓典を下されました。また信仰しかれのご命令に従う者には天国を約束し、かれを信じずにかれが禁止された物事を犯す者には地獄の業火を約束されました。
しかし人間の中には信条の弱さから信仰への呼びかけに応じなかったり、あるいは理性の弱さから統治者に関する諸事を軽んじたりする者がいます。このような者は禁じられた物事を犯したいという衝動が強くなり、他人の生命や尊厳や財産を侵犯することが往々にしてあります。
このような中、人々が犯罪を犯さないようにするべく現世における懲罰が定められたのです。というのも単なる命令や禁止のみでは、ある種の人々にアッラーの定めた法を遵守させておくには十分ではないからです。これらの刑罰がなければ、きっと多くの者が犯罪や法の違反、また義務の怠慢などに陥ることでしょう。
このように固定刑の実施には生命と人類の福利を保護し、法を越えようとする衝動を抑制し、慈悲の念や同情心が欠如した硬化した心を防止する効果があるのです。
また報復刑の実施には殺人や権利の侵害を未然に防ぎ、社会と共同体の生命を保護し、無駄な流血をなくす効果があります。またそれによって被害者の一家の癒しと、公正と平和の実現がもたらされ、無辜の命が奪われたり、国を恐怖が支配したり、未亡人や孤児が増加したりするのを防ぐことが出来ます。
至高のアッラーはこう仰られました:-報復刑(の定め)にこそ、あなた方の生命(の安全)があるのだ。理知を備える者たちよ、あなた方は(不当な殺害や傷害から)慎むことであろう。,(クルアーン2:179)
● 現世は本来報いの場ではなく、真の報いの場は来世です。それにも関わらずアッラーが現世においてその懲罰を定められたのは、それによって達成される平和と、そして腐敗や侵害や不正の抑止力ゆえなのでしょう。
● 5つの絶対的権利:
イスラームは、それ以前の天啓宗教もそれを保護していたところの5つの絶対的権利の保護を強調します。そしてそれらは以下の物事です:
① 宗教
② 生命
③ 理性
④ 尊厳
⑤ 財産
そしてこれらの権利の侵害は、それ相応の刑罰に値する傷害や犯罪と見なされるのです。これらの権利が保障されることは、社会の幸福とその構成員の安寧を意味します。
● 権利と義務の区分:
● 権利と義務には2種類あります:
1-主とそのしもべの間の権利と義務:最も偉大なものはタウヒードとイーマーン[1]で、それに義務のサラー(礼拝)が次ぎます。
2-しもべと、創造物との間の権利と義務:最も重要なものは、生命の保証です。
審判の日にしもべが最初に受ける清算はサラーであり、またその日人々の間で最初に裁かれるのが殺害なのです。
● 故意の殺人に関する法規定:
正当な権利もなく人の命を奪うことは、アッラーに対するシルク[2]に次ぐ大罪[3]の1つです。信仰者は無辜の命を侵さない限り、その宗教の安らぎの中に留まっていられるのです。
そして殺人罪は大きな罪であり、現世と来世における懲罰が必須となります。
1-至高のアッラーはこう仰られました:-そして信仰者を意図的にあやめた者の報いは、地獄の業火である。彼はそこに永遠に留まるのだ。そしてアッラーは彼をお怒りになり、彼をそのご慈悲から遠ざけられる。そして彼には、もう1つのこの上ない懲罰を用意したのである。,(クルアーン4:93)
2-アナス・ブン・マーリク(彼にアッラーのご満悦あれ)によれば、預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は言いました:「“大罪の内で最も罪深いものは:アッラーに対するシルク、(不当な)殺人、親不孝、嘘である。”あるいは、(嘘の代わりに)こう言いました:“偽証。”」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[4])
3-アブドッラー・ブン・マスウード(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「アッラーの使徒(彼にアッラーからの平安と祝福あれ)は言いました:“「ラー・イラーハ・イッラッラー、ムハンマドッラスールッラー(アッラーの他に真に崇拝すべきものはなく、ムハンマドはそのアッラーの使徒である)」と証言するムスリムの生命は、侵すべからざるものである。但し以下の3つの場合は別である:既婚者で姦淫した者、生命に対する生命(報復刑による死刑)、イスラームの宗教を棄てて共同体を離れる者。”」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[5])
● 人々の間の平等:
信仰者の生命の価値は一様であり、ゆえに血債と報復において差別はありません。血統や肌の色、性別などにおいて優劣はありません。
-人間よ、実にわれら(アッラーのこと)はあなた方を1組の男女から創った。そしてあなた方を多くの民族や部族に分け広げた。それはあなた方が互いに知り合わんがためなのである。実にアッラーの御許で最も貴い者は、あなた方の内で最もタクワー[6]の念の強い者。アッラーは全てをご存知になり、全てに通暁されたお方。,(クルアーン49:13)
[1] 訳者注:詳しくは「タウヒードとイーマーン」の章を参照のこと。
[2] 訳者注:詳しくは「タウヒードとイーマーン」の章のシルクの項を参照のこと。
[3] 訳者注:「大罪(カビーラ)」とは、それに対し現世において刑罰が適用されたり、あるいはそれを犯すことで来世において地獄を警告されていたり、またアッラーのご慈悲からの放逐やかれのお怒りを招くこととされているものです。例としてはシルクや殺人、ズィナー(姦淫)や魔法、リバー(不法商取引)、親不孝、嘘の誓いなどがあります。
[4] サヒーフ・アル=ブハーリー(6871)、サヒーフ・ムスリム(88)。文章はアル=ブハーリーのもの。
[5] サヒーフ・アル=ブハーリー(6878)、サヒーフ・ムスリム(1676)。文章はムスリムのもの。
[6] 訳者注:「タクワー」は「自らを守る」という動詞の名詞形。つまりアッラーを畏れ、またそのお怒りと懲罰につながるような行い‐つまりかれが命じられたことに反したり、あるいは禁じられた事柄を犯したりすることなど‐を避けることで、自らの身をアッラーのお怒りや懲罰から守ることを意味します。