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ここで取り上げる特別な状況下にある者とは:①病人、②旅行者、③通常の形のサラーを行うことの出来ないような危険に晒されている者、のことです。慈悲深いアッラーはこの類の者たちにサラーの報奨を禁じられることもなく、またその困難を取り除いて物事を容易になされました。そして彼らがスンナで示された形に則って、可能な範囲内でサラーを行うように命じられたのです。

    特別な状況下のサラー(礼拝)

    ] 日本語 [

    صلاة أهل الأعذار

    [اللغة اليابانية ]

    ムハンマド・ブン・イブラーヒーム・アッ=トゥワイジリー

    محمد بن إبراهيم التويجري

    翻訳者: サイード佐藤

    ترجمة: سعيد ساتو

    校閲者: ファーティマ佐藤

    مراجعة: فاطمة ساتو

    海外ダアワ啓発援助オフィス組織(リヤド市ラブワ地区)

    المكتب التعاوني للدعوة وتوعية الجاليات بالربوة بمدينة الرياض

    1429 – 2008

    ⑭特別な状況下のサラー(礼拝)

    ● ここで取り上げる特別な状況下にある者とは:①病人、②旅行者、③通常の形のサラーを行うことの出来ないような危険に晒されている者、のことです。慈悲深いアッラーはこの類の者たちにサラーの報奨を禁じられることもなく、またその困難を取り除いて物事を容易になされました。そして彼らがスンナ[1]で示された形に則って、可能な範囲内でサラーを行うように命じられたのです。

    1-病人のサラー

    ● 病人のサラーの形式:

    1-本来病人でも義務のサラーは立って行わなければなりませんが、もしそれが出来なければ胡坐をかいて、あるいはタシャッフド[2]の際の座位姿勢のまま行います。そしてルクーゥ(お辞儀の形の礼拝動作)やサジダ(伏礼)の際には、その都度状態を前方に屈めます。それが出来ない場合は、ただ単に頭でルクーゥやサジダの身振りをするだけに留めます。そしてもし座位姿勢でサラーするのも困難であれば、顔をキブラ[3]に向けて体の右側を下にして横になります。もしそれが大変であれば、体の左側を下にします。もしそのどちらも出来ないようであれば、両足をキブラに向けて仰向けになってサラーします。もしそれすらも出来ないようなら、出来る限り楽な姿勢でサラーを行います。その際頭でもってルクーゥやサジダをする身振りをし、サジダの際にはルクーゥよりも深く頭を動かすようにします。理性がある限り、サラーの義務は免じられることはありません。ゆえにスンナで示されているように、サラーを可能な範囲内で行うようにします。

    2-病人もまた健常者同様、サラーにおいてキブラの方向を向かなければなりません。もしそうすることが出来ない場合は、最も無理のない状態でいずれかの方向を向きます。尚病人が手足の先のジェスチャーや指のサインでサラーの各動作を表すことは有効ではなく、前述した通りのスンナに沿った手法で行わなければなりません。

     至高のアッラーはこう仰られました:-ゆえに可能な限り、アッラー(のお怒りと懲罰を招くような事柄)から身を慎むのだ。そして(かれの命を)謹聴し、(かれに)従い、施すのだ。それがあなた方にとって最善なのであるから。そして自らの吝嗇から身を慎む者こそは、真の成功を掴む者なのである。,(クルアーン64:16)

     ウムラーン・ブン・フセイン(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「私には痔があったので、サラーについて預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)に尋ねたところ、彼はこう言いました:“立ってサラーせよ。もしそれが出来なければ座って、そしてもしそれも出来なければ横になって行うのだ。”」(アル=ブハーリーの伝承[4]

    ウムラーン・ブン・フセイン(彼にアッラーのご満悦あれ)には痔がありましたが、彼は言いました:「私はアッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)に、サラーを座って行うことについて尋ねました。すると彼はこう言いました:“立ってサラーするのならそれが最も良い。座ってサラーする者には、立ってそうする者の半分の報奨があろう。そして横になってサラーする者には、座ってそうする者の半分の報奨があろう。”」(アル=ブハーリーの伝承[5]

    ● 病人の体の清め方:

    病人は健常者同様、サラーをするにあたって水で体を清めなければなりませんが、それが出来なければタヤンムム[6]を行います。そしてタヤンムムすらも出来ないようであれば体を清める義務は免じられるので、その状態のままサラーします。

    ● 病人のサラーに関する法的見解:

    1-病人が座位姿勢でサラーしている最中に起立やサジダすることが可能になった場合、あるいは横になってサラーしている最中に座ることが出来るようになった場合などにおいては、その可能になった体勢に移行します。というのもそれが彼にとっての新たな義務として生じたからです。

    2-起立することが可能でも、信頼のおける医者にそう勧められたのなら、病人は仰向けなどの起立以外の状態でサラーを行うことが許されます。

    3-ルクーゥとサジダは出来なくとも、起立と座位姿勢は取ることの出来る病人は、起立姿勢でルクーゥの身振りをし、座位姿勢でサジダの身振りをするようにします。

    4-サジダが出来ない場合、座った姿勢でルクーゥやサジダを行います。そしてその際両手を両膝の上に置き、サジダの動作をルクーゥのそれよりも深めに行うようにします。そして額を枕などの上に載せないようにします。

    ● 病人が2つのサラーをジャムゥ[7]出来る場合:

    病人や障害者などが各サラーを定刻通りに行うことが困難な場合、ズフル(正午過ぎのサラー)とアスル(午後遅くのサラー)をどちら一方の時間帯に、またマグリブ(日没直後のサラー)とイシャー(夜のサラー)をどちらか一方の時間帯にまとめて行うことが出来ます。

    ● サラーにおける困難とは、フシューゥを消失させてしまうような物事のことです。そしてフシューゥとは、心が込められている、静粛な状態のことを指します。

    ● 病人がサラーする場所:

    モスクに行くことが出来る病人は、モスクに赴いてサラート・アル=ジャマーア(集団礼拝)に参加する義務があります。そして可能なら立ってサラーをし、もしそうするのが困難であるなら自分にとって可能な体勢のまま人々と共にサラーします。

    もしモスクに行けない場合は、その場でサラート・アル=ジャマーアに参加します。もしそれが困難なら、自分にとって可能な体勢のまま単独でサラーします。

    ● 病人と旅行者の行いに関して:

    偉大かつ荘厳なるアッラーは病人と旅行者に対して、病人が健康な時に常に行っていた行い(任意のサラーやサウムなど)と、旅行者が定住していた時に常に行っていた行いを、あたかもその両者が今でもその行いを行っているかのように記録されます[8]

    アブー・ムーサー(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「アッラーの使徒(彼にアッラーからの平安と祝福あれ)は言いました:“しもべが病に罹ったり旅行に出たりしても、彼が健康な時、あるいは定住状態にあった時に(習慣的に)行っていた行いと同様のものが記録されよう。”」(アル=ブハーリーの伝承[9]

    2-旅行者のサラー

    ● 旅行とは:定住の地を離れることです。

    ● 旅行においてサラーが短縮[10]され、かつジャムゥ[11]が許されるのは、イスラームの美点の1つでしょう。というのも大方の場合旅行には困難が付き物であり、そしてイスラームは慈悲と易しさの教えであるからです。

    ヤァラー・ブン・ウマイヤは言いました:「私はウマル・ブン・アル=ハッターブに、こう言いました:“-それで不信仰の輩があなた方を試練にかけることを恐れるのなら、サラー(礼拝)を短縮しても問題はない。,(クルアーン4:101)。そして(今や)人々は安全な状態になりました!(それなのにまだサラーの短縮は存在しています)”すると(ウマルは)言いました:“私自身、あなたが驚いたのと同じことに関して驚いている。”(ウマルは言いました:)“それで私はアッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)に、そのことを尋ねました。すると、彼はこう言ったのです:「それ(サラーの短縮)は、アッラーがあなた方に対してお恵みになられた1つのサダカ(施し)である。ゆえにそのサダカを受け取るのだ。」”」(ムスリムの伝承[12]

    ● サラーの短縮とジャムゥに関する法的見解:

    1-旅行中のサラーの短縮は安全な状態であろうと危険を感じていようと、スンナ・ムアッカダ(義務ではないが非常に推奨された行為)です。短縮とは具体的に4ラクアの礼拝(ズフル、アスル、イシャーの3つのサラー)を2ラクアに短縮するということで、これは旅行中以外には許されません。尚マグリブとファジュルの礼拝は決して短縮されることはありません。

    一方ジャムゥは旅行中にせよ定住中にせよ、ジャムゥをすべき要因が出現したらズフルとアスル、及びマグリブとイシャーをいずれかの時間帯にまとめて行います。

     2-旅行に出たら徒歩や乗り物、陸路や海路や空路などの手段や経路を問わず、4ラクアのサラーを2ラクアに短縮することがスンナです。そして必要なら、旅行が終了する時まで時間帯が連続した2つのサラーをいずれかの時間帯にまとめて行うことがスンナなのです。

     アーイシャ(彼女にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「サラーが最初に義務付けられた時には、(全て)2ラクアでした。そして(その後)旅行中のサラーがそのままの形で確定し、定住中のサラーが(4ラクアに)完遂されたのです。」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[13]

    ● 一般に旅行と名付けられるものには全て、旅行の特別規定‐①サラーの短縮、②ジャムゥ、③サウム(斎戒)の解除、④靴下の上を撫でること[14]‐が適用されます。

    ● 旅行者にはどの時点から旅行の特別規定が適用されるか?

    旅行者は自分の町の居住地域から離れた時点で、サラーの短縮とジャムゥを開始します。旅行に特定の距離規定があるわけではなく、常識において旅行と見なされるもの全てに旅行における特別規定が適用されます。

    ゆえに旅行に出た後に完全な形の居住や居留を意図しない限り、その者は旅行者と見なされ、自分の町に帰るまで旅行の特別規定が適用されます。

    ● 旅行におけるサラーの短縮はスンナです。そして旅行にある限り常にサラーを短縮しますが、もし短縮せずに完遂してしまってもサラーは有効と見なされます。

    ● 定住者のイマームに率いられて行う旅行者のサラー:

    1-定住者のイマームに率いられて旅行者がサラーする場合、イマームに従ってそれを完遂します。一方定住者が旅行者のイマームに率いられてサラーする場合、旅行者は本来4ラクアのサラーを2ラクアに短縮し、定住者はイマームのタスリーム[15]の後に4ラクアまで完遂することがスンナです。

    2-旅行者が定住者のイマームとして本来4ラクアのサラーを導く場合、2ラクアを終了してタスリームしてから、「私たちは旅行者です。サラーを完遂して下さい」というのがスンナです。

    ● 旅行中の任意のサラーに関する法的見解:

    旅行中はアッ=スナン・アッ=ラーティバ[16]を行わないのがスンナですが、タハッジュド[17]とウィトル[18]、ファジュルの前の2ラクアはその限りではありません。

    一方旅行中であれ定住中であれ、それ以外の任意のサラーはいつでも行うことが出来ます。同様にウドゥー[19]をした後のスンナの2ラクアや、タワーフ[20]の後のスンナの2ラクア、タヒイヤト・アル=マスジド[21]、ドゥハーのサラー[22]など何か他の原因に関連付けられたサラーも行うことが可能です。

    ● 5つの義務のサラー後にズィクルすることは、性別や旅行者か定住者であるかなどを問わず、スンナです。

    ● 常に旅行状態にある者に関する法的規定:

    飛行機のパイロットや車の運転手、船や電車の操縦士など常に旅行状態にある者は、旅行の特別規定‐①サラーの短縮、②ジャムゥ、③サウム(斎戒)の解除、④靴下の上を撫でること‐を適用することが出来ます。

    ● 旅行から帰った時にすること:

    旅行から帰ったらまずモスクに寄り、2ラクアのサラーをすることがスンナです。

    ● 旅行におけるサラー短縮の諸規定:

    1-サラーの短縮をするかどうかは時間ではなく、場所をその判断基準にします。つまり定住中に義務のサラーをするのを忘れ、旅行に出るまでそれを思い出さなかったような場合、それを短縮した形で行います。また定住状態に入ってから旅行中にやり損ねた義務のサラーを行う場合は、定住者の規定に則ってそれを完遂します。

    2-定住を意図したわけではなく拘留されてしまった旅行者や、完全な定住の意図はないものの何らかの用事ゆえにある一定の場所に居留する必要のある旅行者‐つまりその用事を果たした時点で出発出来るものの、それがいつ終わるか見当がつかないような状態にある者‐は、その滞在期間がいかに長くなろうともサラーの短縮を継続することが出来ます。

    3-義務のサラー時間に入った後に旅行に出発した場合、そのサラーは短縮しジャムゥを行います。また旅行中に義務のサラー時間に入り、その後定住状態に入った場合、そのサラーは定住者の規定に従って完遂し、短縮やジャムゥは行いません。

    ● 飛行機の中でのサラー:

    飛行機のような乗り物の中でサラーする場所がなかったら、その場でサラーします。そしてキブラの方角に向かい、ルクーゥは出来る範囲の身振りで行うに留めます。それから座位姿勢は椅子に座って取り、サジダも同様に出来る範囲の身振りで行うに留めます。

    ● 旅行者がマッカに着いたら:

    マッカであるかその他の場所であるかを問わず、旅行者は定住者のイマームに率いられた場合サラーを完遂します。そして自らがサラーを率いる場合には短縮して行うのがスンナです。

    また旅行中に町を通りかかり、そこからアザーン(礼拝時間に入ったことを告げる呼びかけ)やイカーマ(礼拝開始の合図)が聞こえてきた場合、そしてもしそのサラーをまだ行っていない場合、望むならばその町に立ち寄ってサラート・アル=ジャマーア(集団礼拝)に参加しても良いですし、あるいはそのまま旅行を続けても良いでしょう。

    ● 旅行中のアザーン(礼拝時間に入ったことを告げる呼びかけ)とイカーマ(礼拝開始の合図):

     ズフルとアスル、あるいはマグリブとイシャーをいずれかの時間帯にまとめて行いたい場合、アザーンとイカーマを唱えて1番目のサラーを行います。それから再びイカーマを唱え、2番目のサラーを行います。サラート・アル=ジャマーアで行うのが基本ですが、もし酷寒や強風、雨などに晒された場合は各自その場で行うようにします。

    ● 旅行中のサラーのジャムゥと短縮の仕方:

    旅行者はそうする理由があるのなら、ズフルとアスル、及びマグリブとイシャーをいずれかの時間帯にまとめて、あるいは2つの時間帯の中間に、各自時間的な順番に沿って行います。

    そして移動中でない場合、ジャムゥするかしないかは本人の裁量に任せられるので、どちらでもより楽な形で行います。

    一方移動中の場合は、日没後でまだ(停留状態から)出発する前であれば、マグリブとイシャーをジャムゥ・タクディーム(この場合はマグリブの時間帯に2つまとめて行うこと)の形で行い、また日没前であればジャムゥ・タアヒール(この場合はイシャーの時間帯に2つまとめて行うこと)の形で行うのがスンナです。

    また出発する前に正午を過ぎていたら、ズフルとアスルをジャムゥ・タクディーム(この場合はズフルの時間帯に2つまとめて行うこと)の形で行い、また正午前に出発していればジャムゥ・タアヒール(この場合はアスルの時間帯に2つまとめて行うこと)の形で行います。

     1-イブン・アッバース(彼らにアッラーのご満悦あれ)は言いました:「アッラーの使徒(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)は(旅行の際)移動中であればズフルとアスル、及びマグリブとイシャーをまとめたものでした。」(アル=ブハーリーの伝承[23]

     2-アナス・ブン・マーリク(彼にアッラーのご満悦あれ)は言いました:「アッラーの使徒(彼にアッラーからの平安と祝福あれ)は正午前に旅行に出発したら、ズフルをアスルの時間まで遅らせ、どこかに停留した際にその2つをまとめて行ったものでした。また出発する前に正午を過ぎた場合は、ズフルを行ってから乗り物に乗ったものでした。」(アル=ブハーリーとムスリムの伝承[24]

    3-ムアーズ・ブン・ジャバル(彼にアッラーのご満悦あれ)によれば、預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)はタブークの役の際、正午前に旅行に出発した時にはズフルをアスルの時間まで遅らせ、その2つをまとめて行ったものでした。また正午過ぎに出発する時にはズフルとアスルをまとめて行い、それから出発したものでした。また日没前に出発した際にはマグリブを遅らせてイシャーと一緒に行い、日没後に出発した際にはイシャーをマグリブと共に早めてまとめて行ったものでした。(アブー・ダーウードとアッ=ティルミズィーの伝承[25]

    ● アラファ[26]とムズダリファ[27]におけるサラーの短縮とジャムゥ:

     ハッジに参加する者は預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)の行いに則り、アラファにおいてズフルとアスルをジャムゥ・タクディーム(この場合はこの2つのサラーをズフルの時間帯にまとめて行うこと)の形で行い、ムズダリファにおいてはマグリブとイシャーをジャムゥ・タアヒール(この場合はこの2つのサラーをイシャーの時間帯にまとめて行うこと)の形で行うことがスンナです。

    ● 旅行中のサラート・アル=ジャマーア:

    旅行者は可能な限り、サラーをサラート・アル=ジャマーアで行わなければなりません。もしそうすることが出来なければ、各自出来る範囲の形においてサラーします。

    つまり飛行機や船や電車などにおいても本来立ってサラーするのが最善ですが、それが出来なければ座って行います。そしてルクーゥやサジダは身振りで行うようにし、義務のサラーであればキブラに向かって行います。

    また例え1人であったとしても、アザーンとイカーマを唱えるのはスンナです。

    ● 乗り物に乗りながらの任意のサラー:

    乗り物に乗りながら任意のサラーをするのはスンナで、特に木曜日のそれは推奨されています。また可能な限りキブラに向かってタクビーラトゥ・アル=イフラーム[28]するのがスンナですが、それが出来なければどの方向に向かってでも良いので立ちながらサラーします。もし起立するのが難しいようであれば、座位姿勢のまま頭でルクーゥやサジダの身振りをしながら行うようにします。

    ● 旅行には午前中の早い時間帯に出発するのがスンナです。もし可能であれば木曜日に出発することが望ましく、出来る限り単独では旅行しないようにします。またもし3人以上で旅行する場合は、誰か1人をリーダーに選びます。

    ● 定住状態でのジャムゥ:

    以下に挙げるような状態にある者は、定住状態にあってもズフルとアスル、あるいはマグリブとイシャーをまとめて行うのがスンナです:

    ① サラーを各々定刻に行うのが困難な病。

    ② 雨夜や酷寒の夜。

    ③ 地面のぬかるみ。

    ④ 冷たい強風。

    ⑤ イスティハーダ[29]

    ⑥ 尿失禁症。

    ⑦ 自らの生命や財産の危険を感じる場合。

    3-危険な状態にある者

    ● 義務のサラーはその重要性と利益ゆえにいかなる場合においても免除されることはありませんが、イスラームは寛容さと易しさの教えです。それでもしムスリムがアッラーの道において戦場にあり、敵の襲撃の危険があるような場合には、以下に示すような様々な形で「危険な状態にある場合のサラー」を行います。

    ● 「危険な状態にある場合のサラー」の形:

     1-敵がキブラの方向にいる場合:

     イマームがタクビールし、彼に追従する者はその後方に2列に並びます。そしてイマームに続いて皆揃ってタクビールし、皆揃ってルクーゥします。そしてサジダに差し掛かったら1列目の者たちだけイマームと共にサジダし、彼らが立ち上がったら2列目の者たちがサジダします。そして2列目の者たちがサジダを終えて立ち上がったら、1列目の者たちと2列目の者たちは場所を交代します。このようにして2ラクア目も1ラクア目と同様に行い、タスリ-ムは皆揃って行います。

     2-敵がキブラ以外の方向にいる場合:

    ① イマームがタクビールし、2つに分けられた集団の内の1団が彼と共にサラーの列に並びます。そして別の1団は敵の方向に向かって立ちます。イマームは1ラクア終えたら起立したまま静止し、彼と共にサラーをしていた1団はそのまま自分たちで2ラクア目を完遂します。その後サラーを終えた1団はその場を離れ、敵の方向に向かって立ち、今度は別の1団がやって来てイマームの後ろに立ちます。イマームはサラーを再開し、新しい1団を率いつつ彼にとっての残りの1ラクアを完遂します。但しその際タスリームをせずに座位姿勢のまま静止し、後方の1団が彼ら自身で彼らにとっての2ラクア目を終えるまで待って彼らと共にタスリームします。尚彼らはサラー中も軽い武器を装備するようにし、敵に対する警戒を怠らないようにします。

    ② あるいはイマームが2つに分けられた集団の内の1団と共に2ラクアを行い、その後その1団はタスリームをしてその場を離れます。イマームはタスリームをせずにその場に残り、もう1団がやってくるのを待って、彼らを率いて更に2ラクア行い、そして彼らと共にタスリームしてサラーを終えます。こうしてイマームのみ4ラクア行う、それ以外の全てのものは2ラクア行ったことになるのです。

    ③ あるいはイマームが2つに分けられた集団の内の1団と共に2ラクアを行い、彼らと共にタスリームをします。それからもう1団と共に再度2ラクア行い、そして彼らと共にタスリームします。

    ④ あるいは2つに分けられた集団はそれぞれイマームと共に1ラクアだけ行い、イマームだけが2ラクアを完遂します。イマーム以外の者は1ラクアしか行っていませんが、2ラクア目は後で補う必要がありません。

    尚ここに挙げた全ての形は、スンナによって確定されています。

     3-戦闘の真っ只中で危険が非常に大きい場合:

    徒歩なり乗り物に乗ったままの状態なりで、キブラあるいはそれ以外の方向に向かいつつ、ルクーゥとサジダを身振りで行いながら1ラクアのサラーを行います。もしそうすることも叶わなければ、アッラーがその戦闘に収拾を付けられるその時までサラーを遅らせます。

    1-至高のアッラーはこう仰られました:-サラーを遵守せよ。そして中間のサラー[30]を。そして(サラーにおいて)アッラーに対し、従順であるのだ。またもしあなた方が危険な状態にあるのなら、徒歩でも乗り物の上でも構わない(ので、サラーをせよ)。そして安全になったら、アッラーが以前あなた方が知らなかったところのものを教えて下さったように、かれをズィクル(念唱)するのだ。,(クルアーン2:238‐239)

    2-イブン・アッバース(彼らにアッラーのご満悦あれ)は言いました:「アッラーはあなた方の預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)の口を通して、定住状態においては4ラクアの、旅行中には2ラクアの、そして危険な状態にある時には1ラクアのサラーを定められたのだ。」(ムスリムの伝承[31]

    ● マグリブのサラーの場合は短縮形がないので、イマームは1団と共に最初の2ラクアを、そして別の1団と共に残りの1ラクアを行います。

    [1] 訳者注:預言者ムハンマド(彼にアッラーの祝福と平安あれ)の言動や、彼の認証したこと、及び彼の性質的・形質的諸特徴のこと。ムスリムは可能な限り、彼のスンナを踏襲するべきであるとされています。

    [2] 訳者注:詳しくは「⑤サラーの形」の項を参照のこと。

    [3] 訳者注:カアバ神殿のあるマッカの方角のこと。

    [4] サヒーフ・アル=ブハーリー(1117)。

    [5] サヒーフ・アル=ブハーリー(1115)。

    [6] 訳者注:「タヤンムム」とは、水が存在しなかったり、あるいはそれが正当な理由で使えない状態にあったりする時、砂や埃を水の代用物として体を清浄な状態にすることです。

    [7] 訳者注:時間帯が互いに隣接した2つの礼拝を、どちらか一方の礼拝の時間帯にまとめて行うこと。

    [8] 訳者注:つまり定住していた時や健康な時に常に行っていた任意のサラーなどが旅行や病気などの正当な理由ゆえに一時的に出来なくなったとしても、それらの行いの報奨は得ることが出来るということです。

    [9] サヒーフ・アル=ブハーリー(2996)。

    [10] 訳者注:4ラクアの礼拝を2ラクアに短縮するということです。ゆえにマグリブとファジュルの礼拝は通常通りに行います。

    [11] 訳者注:時間帯が互いに隣接した2つの礼拝を、どちらか一方の礼拝の時間帯にまとめて行うこと。

    [12] サヒーフ・ムスリム(686)。

    [13] サヒーフ・アル=ブハーリー(1090)、サヒーフ・ムスリム(685)。文章はアル=ブハーリーのもの。

    [14] 訳者注:詳しくは「タハーラ」の章の「⑤靴下の上を撫でること」の項を参照のこと。

    [15] 訳者注:礼拝最後の動作で、右と左に振り向いて挨拶すること。

    [16] 訳者注:推奨されている随意の礼拝のこと。詳しくは「⑯任意のサラー」の項を参照のこと。

    [17] 訳者注:深夜に任意で行う礼拝。普通は一旦寝た後に、そのために深夜に起き上がってする礼拝のことを言います。

    [18] 訳者注:「ウィトル」とは、イシャー後からファジュル前までに行うのがスンナ・ムアッカダ(義務ではないが非常に推奨された行為)とされている、奇数回の形式をとる礼拝。

    [19] 訳者注:イスラームにおいて定められたある一定の形式における、心身の清浄化を意図した体の各部位の洗浄。

    [20] 訳者注:「タワーフ」とは、アッラーを崇拝するためにカアバ神殿の周囲を7回逆時計回りに廻ることです。

    [21] 訳者注:モスクに入った時、腰を下ろす前に行う2ラクアのサラーのこと。預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)のスンナです。

    [22] 訳者注:太陽が昇ってから正午前までに行われるスンナの礼拝。ラクア数は2、4、6,8,12など諸説あります。

    [23] サヒーフ・アル=ブハーリー(1107)。

    [24] サヒーフ・アル=ブハーリー(1112)、サヒーフ・ムスリム(704)。文章はアル=ブハーリーのもの。

    [25] 真正な伝承。スナン・アブー・ダーウード(1220)、スナン・アッ=ティルミズィー(553)。文章はアブー・ダーウードのもの。

    [26] 訳者注:「アラファ」とはヒジュラ暦12月の9日目、ハッジの巡礼者たちが赴くことを義務付けられているマッカ近郊の台地のこと。この日この地でアッラーを念じ、タルビヤを唱え、祈り、犯した罪の赦しを乞う事は、預言者(彼にアッラーからの祝福と平安あれ)の「ハッジはアラファである。」という言葉が示す通り、ハッジのメインイベント的意味合いを持っています。

    [27] 訳者注:「ムズダリファ」とは、ヒジュラ暦12月9日の夜を過ごすことになっているマッカ近郊の場所。

    [28] 訳者注:サラーを開始する際に行うタクビールのことです。アッラーが何よりも偉大であり、それ以外の存在はかれなしでは存在することが出来ない小さな存在であることを実感することで、サラー中の畏怖の念を呼び起こし、またかれ以外の何かに心を囚われることがないようにします。

    [29] 訳者注:月経によるものではない、出血のこと。詳しくは「タハーラ」の章の「⑨月経と産後の出血」の項を参照のこと。

    [30] 訳者注:「中間のサラー」とはアスルの礼拝であるという説が濃厚と言われています。

    [31] サヒーフ・ムスリム(687)。